自分勝手な映画批評
カッコーの巣の上で カッコーの巣の上で
1975 アメリカ 133分
監督/ミロシュ・フォアマン
出演/ジャック・ニコルソン ルイーズ・フレッチャー ウィル・サンプソン
朝、看護師長のラチェッド(ルイーズ・フレッチャー)が出勤し、患者たちは薬の配給を受ける。そんな、いつもと変わらぬ日常の精神病院に、手錠で繋がれたマクマーフィー(ジャック・ニコルソン)が連れられてくる。

居場所を間違えたトム・ソーヤー

精神病院での騒動を描いた作品。原作はケン・キージーの小説。第48回アカデミー賞、作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚色賞受賞作品。

何とも複雑な心境にさせられる作品だ。主人公のマクマーフィーは、犯罪を犯して服役する受刑者なのだが、刑務所での労働を嫌い、精神を患ったフリをして精神病院に収監される。虚偽で精神病院に来たマクマーフィーは、ずる賢く、その行動力を鑑みれば、貪欲な男であると言えるだろう。

そんなマクマーフィーと精神と病んで入院している患者たちとの間に意識の違いが生じるのは当然であり、そこにスポットを当てるのがエンターテインメント作品の定石ではないかと思う。

確かに本作も、その意識の違いは重視している。しかし、そこだけで終わらせず、もう一歩踏み込んだ世界を提供している。マクマーフィーは患者たちをアゴでこき使う訳ではなく、患者たちに馴染んで行く。彼のずる賢さや貪欲さは良い方向に向かって行く。これは、意識的にというよりも、半ば、彼の本性なのだろう。患者たちの心を掴んだマクマーフィーは、まるでガキ大将のようである。

これが小学生を描いた作品であるのならば、痛快で爽快な作品になっていたのかも知れない。マクマーフィーの悪ガキ振りは、まるでトム・ソーヤーの冒険を観ているような錯覚に陥ってしまいそうである。だが、いつまでもトム・ソーヤーなマクマーフィーは、現実と正対していない。高い塀で囲まれた病院に嫌気が差しながらも、そこが安住の地になってしまっている。それこそマクマーフィーの抱えた悲劇であろう。

加えて、患者たちの個々のキャラクターを蔑ろにしていないので、作品に幅が生まれる。患者たちには入院している理由がある。さらには看護師長のラチェッドをはじめとする、病院スタッフとの関係。多種なキャラクターの異なる意識と行動と立場が複雑に絡み合い、奇妙な人間ドラマが形成されていく。

マクマーフィーを演じるジャック・ニコルソンは、まるで、この物語が彼の為にあったと思えるくらい、実に生き生きと役に成り切っている。彼のガキ大将振りは天下一品。持ち味を存分に発揮した作品だと言えるだろう。

そんな彼とコントラストのように対峙する看護師長のラチェッドを演じるルイーズ・フレッチャーも良い。彼女は決して仇役ではない。どちらかと言えば本作の良心だと言えるだろう。ただ、彼女の存在を用いて上手くまとめないのが本作の優れた点であろう。

その他、患者役の俳優たちの個性的な演技も実に素晴らしい。特殊な舞台であると言えるだろうが、心理を巧みに操る素晴らしい物語と、それに答える素晴らしい俳優陣の演技。アカデミー会員の評価も納得の傑作だと思う。


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