自分勝手な映画批評
黒い雨 黒い雨
1989 日本 123分
監督/今村昌平
出演/田中好子 北村和夫 市原悦子
昭和20年8月6日、広島に原爆が投下された。重松(北村和夫)は横川駅の列車内で被爆。叔父である重松夫婦と暮らしていたが、当日近郊に疎開していた矢須子(田中好子)は叔父夫婦の安否が気になり、叔父夫婦の元へ向かうのだが…

終わらない戦争

原作は井伏鱒二の同名小説。戦後、原爆後遺症に悩まされる人々の姿が描かれている。

全編モノクロフィルムで描かれているのだが、単に安易にその時代の雰囲気をなぞらえる効果を与えるというより、作風自体、モノクロフィルム全盛期、昭和30年代のような香りをどこか感じてしまう。そしてモノクロ世界だからこその素朴さとダイナミックさが説得力を感じさせる。

キャストの多くは実力派のベテラン俳優なのだが、彼らの演技はまさに圧巻。実力の違いを感じずにはいられない。彼らの演技だけでも大いに見る価値がある。その中での田中好子の頑張りも見逃せない。まだまだ元キャンディーズの肩書きがついていた頃であろうが、そのアイドル性もちゃんと活かして健気な主人公を見事に演じきっている。

内容自体は極めて重い。メインは戦後であるので、少しだけ違った角度から戦争をとらえた作品とも言えるだろうが、これもまさしく戦争の恐ろしさだ。そして戦争が終わってもなお、戦争に苦しめられる姿はやるせなさを増幅させる。その戦争の傷あとはもちろんだが、当時の価値観や人間関係の描き方も興味深い。

前述のとおりキャストの多くはベテラン俳優。監督も含め多くの戦前生まれの人が本作には携わっている。だから価値があるとは簡単に言わないが、風化させず語り継がなければいけない悲劇がある。残念ながら唯一の被爆国である日本だからこそ語り継がなければいけない。戦争によって狂わされた人生が本作には描かれている。


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