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二段ベッドのラブストーリー 原作は青木琴美の漫画。双子の兄妹の禁断の愛を描いた作品。 テーマ、内容共にショッキングな作品である。ショッキングなテーマは他にもあるし、それらを扱った作品も多数ある。だが本作の度合いは、かなり深刻である。と言うのも、例え辛いテーマの悲劇を描いたとしても、その多くは救いとなる希望が何処かに残されているだろう。しかし本作には、その欠片さえも見当たらない。 同じ高校に通う頼と郁は双子の兄妹。郁は、同じく同級生で心優しい矢野から好きだと告白をされていたのだが、踏ん切りがつかずに答えを先送りにしていた。郁はダメだとは知りながらも、子供の頃から兄の頼に恋をしている。そして郁は、最近の頼の冷たい態度に少しばかり心を痛めていた。一方、矢野が郁を好きな事を知っている頼の心中も穏やかではなかった。頼も郁と同様の想いを胸の内に秘めていたのだった。 絶望感が漂う、インモラルな世界。その世界を刺激的に煽るのではなく、静寂をもって映し出しているのが本作の特徴であるだろう。耳から入る台詞以外の情報は、まるで規制でもあるかのように極力抑えられており、視覚に訴える要素も比較的平坦だ。但し、その事により感覚が研ぎすまされ、琴線が敏感な反応を示し、却って感情を刺激する事になる。 また、この静寂は登場人物のキャラクター、俳優たちの演技を際立たせる効果ももたらしていると言えるだろう。質素な造りの本作は、ほぼ若手俳優四人の芝居で構成されている。四人が演じるキャラクターは、いずれも作品を包み込む静寂なムードをベースに造形されているのだが、それでも、その残余で個々に違ったキャラクターに味付けされているのは面白いし、また同時に、その機微に魂を注いだ俳優たちの演技、表現の違いも興味深く感じられる。 本作のムードに一番則しているのは双子の妹・郁だと言えるだろう。言い換えれば、郁が本作のムードを作り出していると言えるのかも知れない。物静かで、常に受け身の郁。演じる榮倉奈々も、しっとりと郁に成り切っている。但し、彼女は郁を単なるか弱い女の子にはさせてはいない。彼女の持ち味である陽性な魅力を活かせる場面は郁の中には少ない。しかし僅かな場面でも、その魅力を最大限に発揮する事で、郁がうつむいてばかりの女の子ではない事を証明している。さらには郁の描かれていない人間性までも想像させ、キャラクターに奥行きを与えていると言えるだろう。 想いは共有しているのだが、郁とは対称的な兄の頼。郁が草食なら頼は肉食であるかのようである。郁との違いは頼が男である事が大きな理由になるのかも知れない。しかし、それだけでは片付けられない、郁には無縁の野性味ある危険性が頼からは感じられる。但し、それには演じた松本潤の資質が関係しているように思う。もしかすると本作の設定上では、頼と郁の相違は大きくないのかも知れない。だが、松本潤が演じる事により、頼の危険な香りが強くなり、また、その香りが色っぽく映るように感じる。 頼に想いを寄せる友華は情熱的だ。この友華を演じる小松彩夏が実に素晴らしい。彼女の放つ妖艶で薄命な色気は、そのベビーフェイスには不釣り合いであり、さらには高校生という役柄にも不相応である。だが、それこそが本作での彼女の魅力の真髄。アンバランスが故に立ち篭める生々しくて不穏な彼女の色香は、本作を活気づけるアクセントだけには留まらず、本作のクオリティーに多大な影響を与えていると思う。 郁に恋する矢野は、登場人物の中で一番客観性があるキャラクターであるだろう。しかし、それだけに人の気持ちが分かり自分を押し殺してしまう、四人の中では一番引き気味のポジション。そんなキャラクターを平岡祐太が安定感のある演技で全うしている。彼の柔らかい演技は、過激一辺倒になりそうな本作をギリギリのところで踏み止まらせて、中和する役割を果たしていると言えるだろう。 本作を美しいと賞するのはテーマがテーマだけに不謹慎なのかも知れない。実際、私自身、現実問題としては本作のテーマに共感は覚えない。だがしかし、センシティブでデリケートな演出と、それに答える若手俳優たちの抑制しながらも万感の込められた見事な演技によって紡ぎ出された創作は、ついつい美しいと讃えたくなる。 少しでも触れたら壊れてしまいそうな脆さ、危うさ、儚さ。そんなナイーブな美しさがインモラルな世界を通じて描かれている。 |
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