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お前さぁ、マルチバースって知ってる? 原作は吉田修一の小説。ルームシェアをしている男女5人の生活を描いた作品。 まず本作で目を惹くのは、人気若手俳優たちをキャスティングしている点であるだろう。このキャスティングは中々巧妙であり、単に作品を賑やかすだけの役目を果たしている訳ではない。もちろん、彼らが作品を華やかにしているのは間違いない。ただ同時に、ある意味、本作の肝とも言うべきギャップを生み出す仕組みにも大きく貢献している。 そういった意味では、本作を人気俳優たち目当てに観るのならば、少なからず戸惑いを覚えるのかも知れない。一見すると、ベース音が奏でる旋律をバックに流した映像はスタイリッシュであり、それなりに際どいシーンが挟まれてはいるものの、彼らが築き上げてきたイメージを大きく損なわずに物語は展開していると言えるだろう。だが、本作の核心は違うところに存在する。 決して新しくない、公団の集合住宅ような造りの一室で共同生活をしている男女2人づつ計4人の同世代の若者たち。腑抜けた大学生の男、若手俳優との恋に依存している無職の女、オカマ好きなイラストレーター兼雑貨屋店員の女、健康オタクな映画配給会社勤務の男と、それぞれ立場もキャラクターも異なる者たちの集まりなのだが、秩序が守られた生活が送られていた。そこに未成年の少年が転がり込んで物語は動き始める。 共同生活をしている部屋の間取りは2LDKなので、同性同士の相部屋。あまり良い環境には思えないのだが、彼らが美男美女である事がマイナス面を和らげ、逆に魅力的だと感じさせているように思う。ただ、魅力的に感じてしまうのが本作のミソであると言えるだろう。 美男美女が共同生活を繰り広げる姿は、ひとつ屋根の下、同じ釜の飯を食えば自然と絆も深くなるといった昔ながらの方程式に則っているように見える。しかし、本作で描かれているのは、昔ながらの共同生活ではない。 仲むつまじく見えても個は個。個人の境界線を越えて入り込む事も入り込まれる事もない。それは個人を尊重する現代社会の風潮が、共同生活というマンションの一室の小さなコミュニティーにもそのまま適用されているからなのだろう。 但し本作は、暑苦しさをも覚える昔ながらの人間関係を否定しているのではないだろう。逆に、まどろっこしい手法ではあるが、反対側からのアプローチを用いて肯定しているかのように思えるのである。 確かに大きなお世話、おせっかいだと煙たがる人間関係はあるのかも知れない。だが、語弊のある言い方かも知れないが、個人の領域を侵犯し、傷つけ傷つけられて構築される人間関係もあるだろう。そして、その関係性を尊ぶ意識は今の時代でも現存するだろう。だからこそ逆説的に描いた本作からは、底知れぬ恐ろしさが感じられる。 ラスト数分で物語は一気に豹変する。この構成と演出は実に見事。このラストがあるからこそ、それまで積み重ねた描写が意味を成し、掲げたメッセージが結実する。 |
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