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消し去ることの出来ない過去の記憶 決着のついていない過去。そんなものを後生大事に抱えていたら、さぞかし心地の悪い毎日を送る事になるだろう。但し、決着とは自分自身でつけるもの。誰に何と言われようと自分が納得をしていれば決着がついた事になる。しかしそれは、未決着の問題を心の奥底に封印する事なのかも知れない。そして、ある日突然、その封印が思いもよらずに解かれてしまう事もあるのかも知れない。 盲目の脚本家ハリーは、実業家エルネスト・マルテルの死を新聞記事で知る事となる。そこでハリーの心の奥にしまっていた記憶が存在感を示し始める。そして、ライ・Xと名乗る男が一緒に映画を作りたいとハリーの前に現れ、記憶の封印はついに解かれてしまう。 人間、ある年齢に達すれば、自分の人生に正対する時を迎えるだろう。自分の人生とは何か? あるいはやり残した事は何か?と感じる時が来るのだと思う。そこで世の為、人の為へと意識が向かうのならば、立派であるのだろうが、そこまでの意識には至らず、もっと個人的な事情に熱心になったとしても、決して間違いではないし、何ひとつ非難されるべきではないだろう。 封印が解かれたハリーの記憶とは、彼が愛したレナとの日々である。但し、順風満帆な恋愛ではなかった。レナは大物実業家マルテルの愛人であった。ハリーの脳裏には、充実しながらも波瀾に満ちたレナとの日々が蘇ってくる。 本作は観る者の人生観を問いただすような大義ある主張が描かれている作品とは違う。だが、観る者の人生観に訴えかける作品ではないかと思う。それは、およそ分別ある大人らしくない赤裸々な体験が描かれている事に他ならない。体裁に惑わされない、理屈では解決出来ない本能の領域だと言えるような個の姿は、人間本来の生身の姿だと言えるだろう。 安易な発想かも知れないが、情熱の国なんて呼ばれるスペインの名に相応しいお国柄を感じさせる作品なのではないかと思う。必ずしも視覚に訴える官能的な描写ばかりではない。だが、官能的に感じてしまうのは、濃密過ぎる程の情熱が描かれているからである。愛憎が入り交じった三角関係。その中で繰り広げられるピュアな恋愛模様は、実に生々しく、そしてあまりにも切ない。 |
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