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剃り残しがある愛しいアゴ 原作は東野圭吾の小説。娘の体に魂が乗り移った女と、その夫との奇妙な人生を描いた作品。 朝起きたら自分が異性になっていたら? そんな想像をした事がある人もいるのではないだろうか? それを作品にしたのが大林宣彦監督の「転校生」であろう。男と女が入れ替わるファンタジックな設定は、それだけでも大変面白い。本作もその類いの作品ではあるのだが、設定が異なるゆえに、少々趣が違ってくる。 本作は入れ替わるのではない、乗り移るのである。しかも、乗り移った先は死んだ自分の娘。性別が変わるという設定ならば、まったく未知な部分も多く、そこで感じる新鮮さや驚きが物語の推進力になっていくのだろうが、同性、しかも生活環境がある程度重なる自分の娘では、その効果はあまり大きくないだろう。 しかし本作では同居する男がポイントとなる。同一人物でありながら、妻にとっては夫、娘にとっては父親となる男。だが、両者の間の感情は女にとっては、さほど問題ではないのだろう。自分の体が変わっただけで、目の前にいる男の姿は夫以外の何者でもない。しかし男は、そうはいかない。見た目は娘だが、内面は妻な女。妻に対する愛情と娘に対する愛情は、根本的に異質なのは言うまでもない。 もう1つポイントとなるのは、女が若返って人生をやり直している事だ。やり直すという表現は、とらえ方によってはオーバーなのかも知れない。だが、時間を巻戻して第二の人生を歩んでいる事は間違いないだろう。しかも、舞い戻った先は華やかな思春期。ドラマが生まれるのは必然と言って良いだろう。 本作は、設定からしてファンタジーと呼べる作品だが、随所にコメディー要素が含まれ、更にはミステリーを用いて壮大なラブストーリーを成立させている。そして、そんな雑多な要素を過不足なく、実にバランス良く2時間の枠の中にパッケージングさせているのは優秀であると言えるだろう。 そんな脚本・演出の妙も然る事ながら、主演二人の演技とコンビネーションの良さも本作の大きな見どころである。 一人二役をこなす広末涼子だが、大部分は娘に乗り移った母親(妻)役である。すなわち、若い女の子の姿をした中年女性。正直、中年らしさは、さほど感じないのだが、広末の魅力を活かす意味では、それで正解なのだと思う。但し、大人の世界へ足を踏み入れた表現もしている。アイドルらしい可憐さと、そこから少し踏み外した妖艶さが上手い具合に調和された魅力として表れているように思う。 相手役の小林薫も実に素晴らしい。彼が演じる平介は、妻に見せるチャーミングな顔と、外で見せる懐の深い大人の大きさを感じさせる顔を兼ね備える中年男。このキャラクターに愛すべき魅力を注入したのは、他ならぬ小林薫の力量であり、本作の演技だけでも、彼が希有な才能と優れた技量を持つ俳優だと実感させられる。 |
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