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すべてシナリオどおり、想定の範囲内 日本有数の自動車メーカーに対する企業買収の攻防を描いた作品。原作は真山仁の小説。NHKで製作されたテレビドラマの続編にあたる。 ヒットしたテレビドラマの映画化は今や当然とも言える道筋ではあるが、NHKがこの手順を踏むのは、かなり珍しい気がする。NHKでも好評だったドラマの続編を作る事はあるが、それは、あくまでもテレビという枠組みの中の話であって、映画にまで発展するとは少々驚いた。それだけ本作には、色々な意味で、映画にする価値があったのだろう。 テレビ・映画を通じた本シリーズの特徴は時代の情勢に著しくリンクしている点であろう。本作にはリーマン・ブラザーズの破綻、いわゆるリーマン・ショックを思わせるエピソードが含まれている。 そして、原作小説の執筆・製作意図は分からないのだが、映画化にまで発展させたテレビドラマの製作、そして評判を得た背景には、世間を賑わせたライブドアのニッポン放送の株式取得から始まる一連の騒動の影響があったと考えられる。 次から次へと目まぐるしく変動する当時の一連の騒動を「まるで週刊少年ジャンプを読んでいるようだ」なんて称する人もいたが、騒動を単にワイドショーや週刊誌が届ける面白ネタと考えるのか、日本という国のあり方、あるいは国が置かれている立場を考える機会とするのかでは大きく異なるであろう。 あらゆる面でグローバル化が叫ばれて久しい。確かに世界に目を向ける事は必要であり、これから先、もっと重要になるだろう。但し、何が何でも世界に従え、右に倣えでは全てが崩壊してしまう。「海外では〜」なんて常套句も時には必要だし、間違いではないとも思うのだが、世界基準を考える一方で、その基準を選別・取捨し、アイデンティティーを保持しなければ、それこそ名前だけ残った、実のないモノになってしまうのではないかと思う。 ただ、そこで難しいのは、保持しなければならないアイデンティティーとは何なのか?という事だ。それこそ世界基準に則った舞台での日本の発展なのか? それとも、今までの文化・伝統を重んじ、築き上げた日本らしさなのか? もしかしたら単に他者と比較、あるいは他者からの評価で養われた優越感や自尊心なのかも知れない。人それぞれ思いも考えもビジョンも違うのは当然と言えば当然だ。 いや、国のあり方を考えるなんて、そこまで大層な主義・主張は持っていないし、個人的な事情がもっとも大切であるという意見もあるのかも知れない。そもそも、国民主権の国家であるならば、国民の意志が尊重されて当然。言うまでもなく、国民の集合体が国家なのである。しかし、全体像を見据えず、あまりにも利己的に私欲を求めるのであれば、国のカタチは歪んでしまうのかも知れない。 本作は単純に善と悪に二分割出来る明朗快活な物語ではない。あらゆるしがらみの中での、登場人物達のそれぞれの思惑での攻防が繰り広げられており、骨太な社会派ドラマとして大変に見応えがある。 続編であるので、テレビドラマを見ておいた方が良いのは間違いない。大森南朋演じる鷲津をはじめとする登場人物の成り立ちの大部分はテレビドラマで描き尽くされている。だからと言って置いてきぼりにされる事ない。逆に重複するような説明を用いない事で物語の進行を妨げる事がないのは良点であろう。何より、本作が披露するスリリングな展開だけでも十分に楽しめるのではないかと思う。 テレビから映画への媒体の変更による違和感は本作にも感じるのだが、本作の世界がおかしい訳ではなく、むしろ魅力的に感じる。クールでドライな映像の印象は、本作の内容にマッチしていると言えるだろう。シーンの繋ぎ方などは実に巧みだ。 本作よりキャストに加わった玉山鉄二が、いけ好かない若者を好演している。彼が演じる劉一華には同情を感じる面もあるのだが、それ以上にいけ好かなさが勝ってしまう。陳腐な演技なのではではなく、陳腐に徹する演技は見事。彼の特異な才能を感じさせる。「太陽にほえろ」を彷彿とさせるような彼のラストシーンは見もの。いけ好かない若者が魂を露にした渾身の演技は、それまでの緊張感とは違った生々しさを感じさせる。 |
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