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獄中から仕掛ける怪人 原作はトマス・ハリスの小説。殺人事件を通じて出会ったFBIの女性訓練生と殺人罪で服役中の元精神科医との不思議な交流を軸にしたサスペンス。第64回アカデミー賞、作品賞・監督賞・主演男優賞・主演女優賞・脚色賞受賞作品。 危うい感覚に誘われる作品だ。FBIが手詰まりな連続猟奇殺人事件の捜査の手がかりを服役中の殺人犯に求める時点で危うい兆候は見られるのだが、その服役中の殺人犯レクターのキャラクターが不気味かつ強烈なので一気におどろおどろしい世界へ引きずり込まれてしまう。 レクターは元精神科医なだけあって感情に揺さぶりをかけるのはお手のもの。超人的な彼のプロファイリングから導き出された、まるで占い師か予言者のようなアドバイスに、真偽があやふやなまま振り回され、いつの間にか彼の術中にはまり、次第にコントロールされていく。 それもレクターに一目置いているから、そうなるのだろう。いや、多くの人は、彼を知れば知る程、一目置いているのかもしれない。だが、彼をあくまでも危険で理解不能な犯罪者と見なし、しっかりと一線を引いていれば問題はないのだろう。レクターに近づいてはいけない。彼は感情の一線を越えさせる魔力を持っている。 だからレクターとFBI訓練生クラリスの関係は危うい。友情・愛情・信頼等、人と人とを結び付ける要素は色々とある。それらが全て当てはまらない別次元での超越した絆で、あるいは真逆で全て当てはまる絶対的な絆で、触れ合いを許されない隔たれた二人は結ばれる。 本作は作中に起こる事柄だけを追えば案外シンプルなのだが、心の隙を突き、闇に迫るような心理のやり取りは大層ボリュームがあり大変見応えがある。そして、そのやり取りは作品内に留まらず、観ている者をも引き込んで行く。 それもレクターを演じるアンソニー・ホプキンスの演技に因るところが大きい。服役囚、獄中と限られた、自由度が少ない設定の中での彼のクリエーティビティには感服。彼の怪演があってこそ本作が一級品のサスペンスとして輝くのだろう。 クラリスを演じるジョディ・フォスターの初々しさも良い。比較的オーソドックスな役柄と言えるかもしれないが、秘められた心の内を些細な表情も無駄にせず適格に表現しているのは彼女ならではだろう。 関連性はないのだが、本作はどこかタクシードライバーと通じる雰囲気を持っている作品だと思う。タクシードライバーでインパクトを与える少女を演じたジョディ・フォスターが、逆に本作ではインパクトを受ける主人公を演じているのは面白いめぐり合わせのように感じた。 |
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