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生まれつきの犯罪者など存在しない 刑務所を出所した男の波瀾に満ちた後半生を描いた作品。監督のジョゼ・ジョヴァンニはアラン・ドロンが主演した1967年公開の映画「冒険者たち」の原作者でもある。 大変良く出来た作品だと思う。ただ、それだけに非常に残念だと感じるところがある。それは作品タイトルだ。「暗黒街」なんて言葉を目にするとマフィアやギャングの物語を想像しがちではないかと思う。ドロン、ジャン・ギャバンが出ているなら尚更だ。しかし本作はそういった類いの作品ではまったくない。 保護司のカズヌーヴは、銀行強盗の首謀者であり12年の懲役を受けて服役し、刑期があと2年残っているジーノの仮出所を申請した。社会復帰はまだ早いとの意見が多勢を占める中、更正を保証し責任も持つとカズヌーヴは頑に主張し、ジーノの仮出所は認められた。ジーノには、ジーノを10年間待ち続け、毎週面会にも来る妻がいる。晴れて出所したジーノは妻と共に再出発しようとしていた。そんな時、ジーノの昔の仲間マルセルがジーノの元を訪れた。マルセルはジーノに、また一緒に仕事をしようと持ちかける。しかし、気持ちを入れ替えたジーノは、マルセルの申し出を断るのだった。 本作の率直な感想を誤解を恐れずに言い表わせば、まるで優秀なプレゼンテーションを見せられた感じである。もちろん、事務的で味気ない作品だと言いたい訳ではない。作者の発するメッセージが優れた伝達手段によって的確に伝わってくるという意味である。 作者の発するメッセージとは人権を蔑ろにする世の中、国家に対する怒りと嘆きである。この社会性のある重いメッセージを本作は、紆余曲折のある起伏が激しいストーリーで揺さぶって感情を煽りつつ、最短距離でシンプル且つストレートに伝えている。その伝達術、誘導術は本当に見事である。これをコンパクトに仕上げているので尚更凄い。 特に感心させられるのは、ドロン演じるジーノの変化する心境の丹念な追跡だ。それは、まるで春夏秋冬のように一連ではありながらも様々な色彩を帯びている。 再出発の希望を抱く春から始まり、憂鬱で物悲しい梅雨を間に挟みつつ、活力ある夏を迎え、曇り空の秋が訪れ、厳しく険しい冬となる。 もちろんストーリー展開と、その時々の心境の描写がセットであるのは当然。なので怒濤の展開には、それに相応しい心境が描かれて然るべきなのだが、それでも、ここまで豊かで情緒的に表現しているのには感服。ドロンの渾身で迫真の演技も素晴らしく、否応無しに感情移入させられてしまう。 物語を締めくくるラストシーンにも高いセンスが感じられる。語る筈のない黒一色が無情な世界を雄弁している。 テーマがテーマだけに深く考えさせられる作品であるのは間違いないだろう。ただ一方でテーマとは別のところ、構成・演出・演技の至高の美技が輝く作品でもある。 ちなみにフランスでは1981年に死刑制度は廃止されている。 |
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★前田有一の超映画批評★ |
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