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あんたとも、いつまでメシが食えるかな 「インファナル・アフェア」の続編。但し、内容は「インファナル・アフェア」以降を描いているのではなく、「インファナル・アフェア」以前の事柄を描いている。 なので、時系列どおりにインファナル・アフェアシリーズを楽しむのならば、本作を先に観るのが正解。だが、製作した順、つまり「インファナル・アフェア」の後に本作を観ても何ら問題はないし、もしかしたら、そうした方が味わいを感じられるのかも知れない。 マフィア組織ンガイ一家のボス、ンガイ・クワンがラウに射殺された。ラウはンガイ一家の支配下でサムが率いる組織の若者。つまりラウは、自分の属する組織の大ボスを射殺したのだった。ンガイの暗殺はサムの妻マリーがラウに命じたもの。その事実をサムは知らない。マリーはラウに、ンガイの暗殺は二人だけの秘密であり、サムには話すなと口止めするのだった。ンガイの死を機に、支配下にあった組織のいくつかはンガイ一家からの独立を試みようとするのだが、ンガイの跡目を継いだンガイの息子ハウの周到な策略により、ンガイ一家はそのままの体制を維持する事となった。一方、警察官を目指し、警察学校でトップの成績を誇るヤンという若者がいた。但し、ヤンには警察官になるには不適格な秘密があった。 時系列では先となる本作が、何故「インファナル・アフェア」よりも前に製作・公開されなかったのか? 確かな事情は私には分からない。元々、三部作相当の長い脚本があり、最もインパクトの強い中間部分を「インファナル・アフェア」として最初に製作したという説はある。だが、「インファナル・アフェア」の大ヒットに便乗して製作されたという、うがった見方も禁じ得ない。ただ、どんな製作経緯や事情があるにせよ、本作が価値ある作品であるのは間違いないだろう。 当然だが本作は「インファナル・アフェア」のプロローグ的な役割を担った作品である。完全無欠な「インファナル・アフェア」だったが、唯一難クセをつけるとすれば、敵組織に潜入するまでの背景が不明瞭な点であった。しかし、過去に遡った本作がある事で、その点がクリアになっている。また、それ以外の、場合によっては些細な「インファナル・アフェア」のエピソードも、つぶさに拾い上げて起原を示している点にも注目したい。 ただ、本作の凄いところは「インファナル・アフェア」のプロローグ的な役割だけの作品ではない事である。本作は単体としても十分な見応えを感じる作品、極端な話、「インファナル・アフェア」を観なくても、本作だけでも存分に楽しめる作品なのである。 そうなった理由として、まず考えられるのは時系列と製作順序を逆にした事だろう。時系列と製作順序が同じであるのならば、おそらく本作は次の物語となる作品、つまり「インファナル・アフェア」に引き込まれるような作品であっただろう。しかし、時系列と製作順序を逆にした事で本作の存在価値を明確に示す必要性が生まれ、「インファナル・アフェア」からの吸引力が薄まったと考えられる。 その事を踏まえての本作の独立性の最大のポイントは、本作が「インファナル・アフェア」に至る経緯に必ずしもフォーカスしていない点である。 完全なプロローグであるならば「インファナル・アフェア」の主人公であるヤンとラウに本作でもフォーカスすべきである。しかし、本作がフォーカスしているのは若き日のヤンとラウというよりも、「インファナル・アフェア」で彼らを裏で操る刑事のウォンとマフィアのサムなのである。 実際にはウォンとサムがいるからヤンとラウが存在するので、大局的にはプロローグを全うしている事に違いはない。それにヤンとラウが、まるっきり脇に追いやられている訳ではない。物語の中心にはちゃんと位置している。だが、それでもフォーカスの微妙なズレは、シリーズのテーマの一貫性を揺るがせてしまっていると言えるだろう。 ただ、その事は、ひとつの狙いであるだろう。違う事柄をフォーカスした事で新たなテーマを生み、違った感激を呼び起こし、シリーズを豊か広げているのは間違いない。何より「インファナル・アフェア」でのウォンとサムは、サブキャラクターにしておくにはもったいない存在感を示していたので、二人を深く掘り下げた本作の趣旨は嬉しい限りである。 但し、正直に言って本作は、若干、風呂敷を広げ過ぎたのではないかと思う節がある。その事でスケール感を生み出したと言えるのだが、一方で、その事が影響して「インファナル・アフェア」との接続が少しばかり噛み合っていないようにも感じる。しかし、その点は「インファナル・アフェア」までの空白がカバーしていると解釈して良いだろうし、また、多くの微調整は次作の「インファナル・アフェアlll 終極無間」が行なってくれる。 ウォンとサム、そこにマフィアの新ボス・ハウが加わった三つ巴の攻防、更にはそこに若さみなぎるヤンとラウが絡みながら繰り広げられる本作は、「インファナル・アフェア」とは少し違った、でも確かな満足感を得られる作品である。 |
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★前田有一の超映画批評★ |
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