|
||||||||||||
うっすらと悲しいな 原作は幸田文の小説。父・継母・姉・弟の四人家族の姿を描いた作品。 本作は「銀残し」という手法を世界で初めて映画に取り入れた作品らしい。素人の私には、そのメカニズムはもとより、この手法を取り入れた事がどれだけ画期的で斬新だったのか、その偉業の凄さが今イチ分からないのだが、この手法によって得られたとされる効果、明暗のコントラストが強調される効果は確かに本作で実感出来る。その事により、実に引き締まった美しい映像が堪能出来る作品に仕上がっている。 舞台は大正時代。主人公は女学生のげん。彼女はリュウマチを患う継母の代わりに家事を切り盛りしている。ただ、彼女の苦労はそれだけではない。敬虔なクリスチャンの継母とは折り合いが悪く、また、愛する弟・碧郎も姉に甘えるクセに最近はヤンチャの盛りで手を焼かせる。そんな二人の板挟みとなるげん。小説家の父が頼みではあるのだが、放任主義な故にあまり口を出そうとはしない。そうしている間にも、碧郎の悪さはどんどんとエスカレートして行く。 本作はストーリーだけ追えば、かなり辛辣な物語だと言えるだろう。しかし、必ずしも辛辣一辺倒になっていないのが本作の特徴ではないかと思う。 そう感じる原因を私なりに解釈すれば、ひとつはフィルムから感じるセンスではないかと思う。前述の「銀残し」によってもたらされる映像美、加えて空間を有効に使った巧妙なレイアウトが用いられた絵は、物語の内容とは不釣り合いなスタイリシュな印象を与える。 更には、主人公げんを演じる岸惠子の存在感も大きな要因となる。げんは間違いなく献身的な悲劇のヒロインである。だが、岸惠子が演じる事により、しみったれた部分が一掃されてしまったような気がする。決して悪く言ってるつもりはない。岸惠子は同情心を誘うヒロインではなく、悲しい物語に目映い光を降り注ぐヒロインとして君臨している。この意義は本作で非常に大きい。 だがやはり、辛辣な物語には変わりがない。工夫を凝らした映像、岸惠子の存在感に心を奪われながら物語は進行して行くのだが、却ってその事で作品のテーマが強調されたように思う。徐々に顔を見せ始める辛い運命。バラバラの家族の行く末があまりにも悲しい。 |
>>HOME >>閉じる |
|||||||||||
★前田有一の超映画批評★ おすすめ映画情報-シネマメモ |
||||||||||||