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君は僕の幸運の星 ショービジネスの世界を舞台に、大スターの映画俳優と駆け出しの若い女優の恋愛を描いたミュージカル作品。 大人になれば雨の日なんて煩わしいだけだ。だが、そう感じる今の自分からしてみれば不思議なものだが、子供の頃、特に幼い頃は雨の日が楽しかった。ワザと水たまりに入ったり、長靴の中まで水浸しにしたり。帰宅して母親に怒られるのも、ちょっとした勲章であるかのように感じて楽しんでいたように思う。 本作には映画史に残る名シーン、ジーン・ケリーが大雨の中で本作のタイトル曲を、まるで子供のように楽しそうに歌い踊るシーンがある。但し、別段、雨に関係する作品ではない。 映画俳優のドンは大スター。常に映画で相手役を務めるリナとは世間では恋人同士だと認知されていた。しかし、それは映画の宣伝の為の言わば偽装の関係。リナにはその気があるのだが、ドンは裏表があるリナをあまり良くは思っていなかった。大々的に行われた二人の主演映画の試写会の帰り、ドンはファンに囲まれ、もみくちゃにされてしまう。その場から逃げ出したドンは、若い女性が運転している車に飛び乗った。大スターのドンは誰からも憧れられる存在である筈なのだが、その女性はドンにあまり関心を示さなかった。 本作の舞台となるのは1920年代後半のショービジネスの世界。映画がサイレントからトーキーへと移り変わる、まさにその瞬間である。大変興味深く感じたのは、サイレントとトーキー、そして舞台演劇の関係性だ。本作の描写に基づいて解釈すれば、それらの資質は大きく異なる。だが同時に、不思議な三角関係で結ばれているのである。 サイレントとトーキーを引っ括めた映画と舞台演劇の違いは、ちょっと考えれば思い当たるのだが、舞台演劇が1ケ所でしか観る事が出来ないのに対し、映画は同時期、複数の場所で観る事が出来る点である。すなわち映画は、舞台演劇に比べて圧倒的に大多数の人の目に触れられる機会、可能性がある。よって、短絡的ではあるのだが、世間への浸透力を考えれば、ヒット作、スター俳優は映画の方が生み出される確率は高いと言えるだろう。 次にサイレントとトーキーの違い。これは私にとって盲点だったのだが、音声を必要としないサイレントは極端な話、言葉を実際に発しなくても口さえ動かしていれば何となく成立してしまう。そういった意味では、少し乱暴かも知れないが、演技の面でサイレントとトーキーとでは、同じくフィルムを介しているのにもかかわらず質が異なり、逆にトーキーと舞台演劇の方が近いと言えるだろう。そして、この事が本作の重要なポイントとなる。 ショービジネス界の重大な変革の場面をしっかりと絡めたストーリーは実にエキサイティングだ。そのストーリーだけでも十分な見応えなのだが、本作の長所はそれだけではない。喜びと楽しさが充満している活力ある雰囲気も本作の大きな魅力である。 本作の持つ明るいムードは、製作された時代の所為だと言えるのかも知れない。本作のような作風は現代では馴染みが薄いのではないかと思う。それは世の中が複雑化し多種多様に変化した表れであるし、映画が高度に成長してきた表れでもあるだろう。だからといって、喜びと楽しさが変わらずに人間にとって必要な感情であるのは言うまでもない。ならば、決してホコリを被せておいて良いテーマではないだろう。 喜びや楽しさを明白に表現するのはコメディーの領域だと言えるのかも知れない。確かに、本作にもコメディーの要素は多分にある。だが、単に笑わすだけではないのが本作だ。本作にはコメディーの趣旨とは違う、生きている上で沸き上がる喜びや楽しさ、前向きな感情を表現し伝えようとする意志が明確に感じられる。そして、それらを直球勝負でしっかりと具現化しているのが本作の偉大なところではないかと思う。 もうひとつ印象深く感じたのは、イレギュラーな見解ではあるのだが、本作がアクション作品のように見えてしまう事だ。本作には対決シーンも挌闘シーンも一切ない。だが、ジーン・ケリーやドナルド・オコナーらが繰り広げるストーリー性のあるコミカルでアクロバチック、そしてダイナミックなミュージカルシーンは、アクション作品、さながらジャッキー・チェンの映画のアクションシーンを観ているのと似たような気持ちにさせられる。 ジャッキーや他の現代のアクション監督が、本作及びジーン・ケリーの他の作品を参考にしているのかは分からない。もっと遡ってチャップリン等のサイレント映画を参考にしているのかも知れない。ただ、どんな事情にせよ、単なる偶然にせよ、時代を越えて同じような表現力のサービス精神がある事は嬉しく思う。 前述した有名なシーンが何かとクローズアップされる本作ではあるが、本作の価値はそのシーンだけには留まらない。あらゆる面で見るべきところが多く詰まった歴史的な傑作ではないかと思う。 |
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