自分勝手な映画批評
愛のむきだし 愛のむきだし
2009 日本 237分
監督/園子温
出演/西島隆弘 満島ひかり 安藤サクラ
厳格なクリスチャンの家に生まれたユウ(西島隆弘)は幼くして母を亡くした。父テツ(渡部篤郎)はやがて神父となるのだが、そんな彼らの前にカオリ(渡辺真起子)という気性の激しい女が現れる。

淫欲の中に光る真実の愛

心優しき青年の、狂い始めて歯止めがきかない激動の日々を描いた作品。

評価の高い作品のようだが、下ネタ満載で、多大なる下品でハレンチな描写ゆえに、およそ万人受けしない、マニアックな作品だと言えるだろう。だが、そんなキャンパスの上に人間の魂の奥底からの叫びが、実にエネルギッシュに描かれている。

国語力に乏しい私の勝手な思い込みなのかも知れないが、「愛のむきだし」という言葉の響きには、少し違和感がある。「むきだしの愛」だとか「愛をむきだしにした〜」といった具合ならしっくりくるのだが、「愛のむきだし」では、いびつな感じを覚える。だが、そのいびつさは、規格には収まりきらない迫力の作品内容を、非常に適格に言い表わしているように思う。

ストーリーは、性と宗教という、言わばデリケートな領域をベースに、愛の奥深さを描いている。正気とは思えないシーンの数々だが、それは、可能性の極地なのかも知れないが、現実の際(きわ)に潜む恐怖と危険を描いていると言えるのではないかと思う。

そんなストーリーを生々しく感じさせるのは、俳優陣の演技によるところが大きいように思う。特に女優陣のエキセントリックで危機迫る演技は強烈で圧巻だ。

まず先陣を切るのは渡辺真起子だ。彼女の激しさは、もはや獣と言っても良いだろう。彼女の演技が、迷走を極める物語の扉を開く事となる。

そして、後々登場するのが、満島ひかり、安藤サクラの本作の肝となる主要人物だ。

満島ひかりは、その愛らしいルックスには似つかわしくない、物怖じなんて言葉どこ吹く風の大胆な演技で、全身全霊で感情をぶつけてくる。そのルックスゆえに、幾分かはマイルドに感じさせるのだが、それでも、お飾りのようなヒロインでは決してなく、本作の趣旨を体現した、まさに本作に相応しいヒロインだと言えるだろう。

さらには、本作のイニシアチブを握る安藤サクラが、実に素晴らしい。彼女は、まるで魔女のような無気味な存在感で人の心を制圧し、狂気の世界を構築し支配する。

このように本作は、女優陣のパワーが引っ張って行く、女性上位に感じる構図であり、比べて、男優陣の演技は、女優陣ほどの荒々しさは感じない。だが、決して男優陣が負けている訳ではない。

特に主人公を演じる西島隆弘のアイドルっぽい中性的な容姿での演技は、本作の柱として不可欠であり、無垢な人物像を実に分かりやすく表現出来ており、それゆえエスカレートする下品さというのも納得である。また、その容姿と行動のアンバランス加減は、極端すぎるきらいはあるが、ギャップとしても有効ではないかと思う。

本作の他作とは違う特徴は、ほぼ4時間という長丁場である事であろう。尺があればあるだけ、描きたい事は詰め込める訳だから、そういった意味ではズルいとも思えるのだが、それでも、尺の長さを存分に利用して、作品に様々な顔を作り出している事は優れた技量だと言えるだろう。

決して優しい作品ではない。だが、特殊な映像・描写の中にある、むきだし過ぎるくらい、むきだしな世界は、観る者の心を強く動かし、激しく揺さぶり続けるのではないかと思う。


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