自分勝手な映画批評
ワールド・オブ・ライズ ワールド・オブ・ライズ
2008 アメリカ 128分
監督/リドリー・スコット
出演/レオナルド・ディカプリオ ラッセル・クロウ マーク・ストロング
英国マンチェスター。テロリストのアジトに武装した捜査員たちが大量に踏み込む。しかし、それは罠であり、中にいたテロリストは自らスイッチを押し、自爆テロを遂行した。

これは戦争だ、分かってるな?

原作はデイヴィッド・イグネイシアスの小説。中東を舞台にテロリストに挑むスパイたちの姿を描いた作品。

スパイを描いた作品は数多く存在し、作風も多岐に渡るので一概にスパイを描く旨味は言い表せないのだが、その中のひとつは、スパイという職業の資質から現実の社会問題、国際情勢を物語に関与させるのが容易である事ではないかと思う。現実の社会問題や国際情勢をリンクさせる事で作品がリアリティーで染まるのは言うまでもない。

東西冷戦終結以降、世界的な恐怖はテロリストの存在だと言えるだろう。中東を舞台にし、テロリストを相手に繰り広げられる物語の本作はリアリティーに満ち溢れている。但し、これが本当にリアルなのかは分からない。また、正直に言ってデリケートな一線を越えてしまっている感じもする。ただ、あえて一線を越えた事で違った種類のリアリティーが捻出されているようにも感じる。

イラクのサマラに潜入し諜報活動を行っているCIAエージェントのフェリスは、テロ組織の人間なのだが情報提供したいと申し出たニザールという男に会いに行く。ニザールが情報提供する理由は組織より自爆テロを命じられてしまった為。つまり死にたくないニザールは、情報を提供する代わりの条件としてCIAに身柄の保護を求めたのだった。ニザールの条件を承諾し情報を手に入れたフェリスは上司のホフマンに報告をする。しかし、ホフマンはニザールを保護せずに町に戻せと告げるのだった。町に戻されたニザールはテロリストの仲間たちに拉致されそうになる。ニザールを付近で監視していたフェリスは、自分が接触した事がテロ組織にバレてしまう恐れがある為、その場でニザールを射殺した。

本作の最大の特長は、作品全体を包み込む絶大な緊迫感であり臨場感であるだろう。しかも大したプロローグもなく、初っ端から訪れるので、観る者は最初から作品にのめり込む事が出来る。リアルなアクションシーンはもとより、それ以外のシーンでもスリルとサスペンスが充満しており、しかも慌ただしく矢継ぎ早に展開されるので、常に心拍数は高い数値でキープされる事となるだろう。

物語のメインであるスパイの立場からのテロリストとの攻防を縦軸とするならば、本作にはスパイ同士の人間模様という横軸も存在する。この2つが関連性を持って交わっているので作品が豊かになっているのだと思う。そして実際には人間模様から浮かび上がるものこそが本作のメッセージのようにも感じる。

目的は同じでありながらも、多かれ少なかれ立場も考え方も異なる3人のスパイ。同じCIAでも上司と部下、あるいは現場で奮闘する者と高みから作戦を立て指示する者との意識の違い。更には、そこに一層認識が異なる他国のスパイ、ヨルダン情報局の司令官が絡んでくる。慌ただしい展開の中ではあるのだが、この3人の男のドラマにも確かな見応えを感じる。

悪は撲滅しなければならない存在であるのは当然である。しかし、悪を撲滅しようとする存在は本当に正義なのだろうか? 緊迫したスリルとサスペンス、派手なアクションに心を奪われがちになるのだが、その辺りも本作は問いかけている。

リドリー・スコット作品の常連であるラッセル・クロウは本作にも出演している。但し、いつもとは様相は異なる。役づくりの為にウエートを増量させて臨んだ本作は、見た目的にはCSI:科学捜査班のグリッソムのように映り、クロウ本来の色気ある魅力は封印されている。だが、それでも実力を発揮するのは素晴らしく、役者魂を感じさせる。

気高い気品を感じさせるマーク・ストロングも良い。


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