自分勝手な映画批評
ちはやふる−上の句− ちはやふる−上の句−
2016 日本 111分
監督/小泉徳宏
出演/広瀬すず 野村周平 真剣佑 森永悠希
太一(野村周平)が入学した瑞沢高校では、部活動の勧誘が盛んに行われていた。太一はサッカー部に入部するつもりでいたが、クラスの男子達は全員、かるた部に入部するという。

私には、強い絆の歌に聞こえるなぁ

競技かるたに情熱を注ぎ込む、高校生達の姿を描いた作品。原作は末次由紀の人気漫画であり、本作以前にテレビアニメ化されている。

もちろん、かるたは知っているし、やった事もある。ただ、いつやったのか、記憶を掘り起こしても思い出せない。少なくとも、ここ数年の間ではない。そんな私なので、原作漫画もテレビアニメも未体験だった事もあり、本作に触れるまで競技かるたなるものが存在しているとは露程も知らなかった。しかも、まるでスポーツかのごとく熱く、激しく行われている事に本作を観て驚いた。また、伝統文化なので武道的な要素も多分に含んでいるようであり、それも本作で得た知識だ。

もう1つ得た知識がある。それは競技かるたが男女平等であり、男女の対戦が普通に行われている事だ。そして、その事が「ちはやふる」の1つの肝だと私は考える。

男女平等が当たり前の時代だが、スポーツに関しては男女は大多数において不平等である。だから、通常、学生スポーツを題材にした物語の場合、男女の間には明らかに一線が引かれ、例えば、野球部のピッチャーとマネージャーといった登場人物になる。なので、友情は育みにくく、恋愛に陥りがちとなる。

しかし、男女平等な競技かるたの場合は男子も女子も同じ部員なので、ごく自然に男女間の友情が描けるのである。とは言っても、男と女。ましてや恋愛も大事な仕事の1つである学生時代なので、恋愛感情が沸き上がるのも当然。つまり、物語の可能性が広がるという訳だ。どうして原作者の末次は競技かるたを題材にしたのか分からないのだが、とても良い目の付け所だったと感心する。

瑞沢高校に入学した太一は、小学生の時に一緒に競技かるたをしていて、同じく瑞沢高校に入学した千早が入学早々、競技かるた部を設立しようとしている事を知る。千早の姉は雑誌の表紙を飾る程の有名なモデルであり、千早もカワイイ容姿をしているので競技かるた部に入部希望をする新入生男子が殺到するが、競技かるたの激しさ、それを鬼気迫るような形相で行う千早に面食らってしまい、皆、逃げ出してしまうのだった。ひょんな事から、校舎の屋上で小学生以来の再会を果たす太一と千早。そこで太一は千早に小学生の頃と変わらない、かるたへの熱い想いがある事に驚く。そして、そんな千早を嘲笑し、サッカー部に入部すると告げるのだった。

本作の特徴として挙げられるのが、ほとんど大人が登場せず、ほぼ高校生達だけで物語を展開させている点だ。もっとも、オーバーエイジが高校生を演じている場合も多い。だが、それでも、彼らが若手俳優である事に変わりはなく、その若手俳優達がベテラン俳優顔負けの巧みな演技をしている事が本作の特徴となっている。

特筆すべきは、森永悠希だ。森永演じる机くんは本作のキーパーソンになっており、机くん次第で本作の成否が違う事になると言っても良いのだが、その大役を森永は見事に演じ切っている。そもそも森永の演技は以前より定評があるが、本作で森永の凄さを、まじまじと実感できる。

矢本悠馬も個性的な演技をする若手俳優だが、残念ながら森永程の見せ場はない。但し、矢本の賑やかしの演技は非常に効いており、本作から放たれている明るくて愉快なムードに多大なる貢献をしている。清水尋也、坂口涼太郎の怪演も見事で強烈なインパクトを残しているし、上白石萌音も好印象で、本作を観る限り、後々、八千草薫のような女優になるのではないかと期待してしまう。

本作の主役は広瀬すず演じる千早ではあるのだが、実質、主役は野村周平演じる太一と言って良いだろう。何故なら、太一の目線で物語の多くが描かれているからである。クールなイケメン風情は保ちつつ、とぼけた味と秘めた心情を表現した野村も立派だ。

そんな中、唯一、高校生達と深く関わりを持つ大人、府中白波会のかるたの先生を演じる國村隼が存在感を示している。國村のソフトな語り口調は決して若者達の物語の邪魔をせず、それでいて悩める高校生達を優しく包み込む、頼りになる大人というキャラクターに真実味を持たせる効果があるので、國村のキャスティングは、とても的確だったと言える。

ただ、やはり広瀬あっての本作でもある。物語は、まるで千早が台風のごとく大暴れをし、周囲を巻き込むからこそ動く。そして、その強大な推進力が本作の大きな魅力となっているのだが、広瀬の演技には台風になるだけの絶大なパワーがある。

演出も素晴らしい。こういったタイプの漫画を映画化すると、どうしても先を急いで詰め込んでしまう傾向があり、その傾向は本作にもあるのだが、それを本作はリズミカルにテンポ良く展開させる事で補い、それどころか逆に長所としている。1つ1つのシーンも丁寧で、良く考えられている事が分かるし、笑いもふんだんに盛り込まれているので、観ていてとても楽しい。

監督の小泉徳宏も30歳代半ばなので若い。なので、若者が主体で作り出した若さ溢れる瑞々しい作品だと言えるのだが、そればかりではなく、完成度も非常に高い作品だと言える。


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