自分勝手な映画批評
七年目の浮気 七年目の浮気
1955 アメリカ 105分
監督/ビリー・ワイルダー
出演/トム・イーウェル マリリン・モンロー イヴリン・キース
ニューヨークのマンハッタンに住んでいた先住民たちは、毎年7月の酷暑が訪れると妻や子供たちは土地を離れて涼しい過ごし易い場所に避暑し、夫たちだけが残って狩猟や漁の仕事に精を出す事を習慣としていた。その習慣は現代のマンハッタンでも残っており、夫のリチャード(トム・イーウェル)は、避暑に出掛ける妻のヘレン(イヴリン・キース)と息子のリッキ−を駅で見送った。

中年男性の抑制された本能、その原因と結果

妻子のいない間に芽生えた浮気心と葛藤する男の姿を描いた作品。

マリリン・モンローの一番のビジュアルイメージ、スカートがまくれ上がるシーンが登場するのが本作である。このシーンでモンローが着用していた白いドレスの衣装は、2011年にオークションにかけられ、460万ドル(約3億7千万円)もの高値で落札されたというので驚きである。

また余談だが、おそらく大ヒットしたデュエットソング「3年目の浮気」は、本作を由来にしている事だろう。





リチャード・シャーマンは小さな出版社に勤める男性。リチャードは妻子がいるのだが、在住するマンハッタンでは夏の間は妻子を避暑に出すのが習慣になっており、リチャードも習慣に従って妻子を避暑に出し、ひとりマンハッタンに残って仕事に勤しもうとしていた。リチャードの自宅は3階建てのアパートで、1階をリチャードの一家、2階はカウフマン家、3階は内装業をしている2人組が居住していた。妻子を送りだした日、仕事を終えて帰宅したリチャードは、自宅アパートで若くて美しい金髪の女性に出会す。その女性はカウフマン家が留守の夏の間、2階の部屋を借りていたのだった。





舞台劇のようなムードを強く滲ませる本作。それもその筈、元々はブロードウェイで上演されていた舞台劇、つまり本作は舞台劇の映画版なのである。しかも本作主演のトム・イーウェルは、原作のブロードウェイでも同じく主役を演じていたというので、筋金入りの映画版である。

物語は主人公の心情を基本にして進んで行く。想像力が豊か、と言うか妄想癖のあるこの主人公。楽しい妄想だけならば良いのだが、滅入るような妄想も多分に広がって行くのでタチが悪い。だが、その事で物語が面白くなる。表立った動向ではなく、躁と鬱を行ったり来たりする、振り幅の大きい主人公の心情が物語のキモなのである。

そんな、ちょっと神経質な主人公をイーウェルが素晴らしく演じる。物語の性質上、圧倒的な台詞量、演技量を担い、作品の屋台骨を一手に背負っているのだが、見事に責務を果たしている。さすがはブロードウェイ時代からの立役者。言い換えれば、イーウェルでなければ本作は成立しなかったと言えるだろう。

モンローはヒロインと言うよりも、ヴィーナスといった感じだろうか。ちょっと世間からズレているような、所謂天然ボケな仕種は実にチャーミングである。しかし、それだけではない。母性にも似たような、女性の大きさ、優しさも感じさせているのである。

もっとも、そのようなキャラクターは、そもそもの役柄の設定である。だが、立体化させたのはモンローの魅力に他ならない。スカートがまくれ上がるシーンがモンローのシンボルとなり、更には映画史に残る名シーンとなって世間、後世に広まったのは、もしかしたら、本作全般に渡るモンローの好演がバックグラウンドとして支えになっているからなのかも知れない。

スタッカートが効いた「チョップスティック」の楽しい旋律が懐かしく、忘却していた童心が一気に蘇る。


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