自分勝手な映画批評
その男、凶暴につき その男、凶暴につき
1989 日本 103分
監督/北野武
出演/ビートたけし 白竜 芦川誠 川上麻衣子
ある夜、公園で生活している男の元に複数の少年が現れ、殴る蹴るの暴行を加え、一通り終えると立ち去って行った。

撃ち合いになるかも知れないよ

型破りな刑事の末路を描いた作品。

本作は「世界のキタノ」こと北野武の記念すべき第一作監督作品である。本作は当初は深作欣二が監督を務める予定だったのだが、深作が降板した為、武に監督の座が回ってきたらしい。このようなアクシデントがなければ、もしかしたら「世界のキタノ」は誕生していなかったかも知れない。そう考えると、中々興味深い経緯である。





素行不良で問題の多い港南署の刑事・我妻。我妻は、新しく就任した港南署長に直々に注意をされるのだが、態度を改めるつもりなど毛頭なかった。我妻が心を許しているのは同僚刑事で理解者の岩城だけ。そして気掛かりなのは病気の妹の事であった。ある日、大きな事件もなく不品行な職務をしていた我妻の元に刺殺体が発見されたとの連絡が入る。





前述した監督に至る経緯も興味深いのだが、他にも興味深く感じられる面のある作品である。と言うのも、初監督作品でありながらも、集大成のように感じられる作品だからである。

本作を簡単に言い表わせば、一匹狼な男の生きざまをバイオレンスに特化して描いたハードボイルドな作品である。このような作品は幾らでもある。但し、本作が幾らでもある作品とは一線を画するのは表現方法である。

本作では内容に準ずるとでも言うべき決まりきった演出が施されていない。例えば、こういったタイプの作品に有りがちな見得を切るような演技は見当たらない。何も、見得を切る演技が悪いとは思わない。むしろ、こういったタイプの作品の醍醐味だと言えるだろう。そう考えると、見す見す美味しいところを逃していると言えなくもない。だがあえて、いわゆるエンタ−テインメント性を排除した事で事実がありのままに伝達され、却って恐怖を助長させていると言えるだろう。

本作のような従来のセオリーに反していると言えるような演出は、もしかすると、知ってか知らずか、習わしの中に浸かってしまっている職業監督では思いもよらない芸当であり、素人監督ならではの芸当なのかも知れない。もちろん単なる素人ではない。才知溢れる武だからこその芸当だと言えるだろう。

監督・北野武の特有のクリエイティブなセンスで覆い尽くされている本作。面白く感じるのは、本作での演出スタイルと俳優・ビートたけしの演技スタイルがシンクロしているように感じる点である。

本作公開時には、すでに俳優としての実績を十分に残していた武。年々演技に変化は見られるのだが、少なくとも当時の武は独特なポーカーフェイスが持ち味であり、そこから裏側に潜む人間性を感じさせるのに長けた俳優であったと思う。その演技スタイル、表現方法は、本作の演出、あえてドライで平坦に描き、逆にバイオレンスを強調させる演出と同じ原理なのではないかと思うのである。

もうひとつ興味深く感じるのは、本作が過激で暴力的な作品である点である。ビートたけしの笑いは決してアットホームではなく過激で、時として暴力的であった。つまり過激と暴力は芸人・ビートたけしが笑いを生み出す為に用いたアイテムなのである。本作はコメディーではないので導き出した結果は180度と言って良い程に異なる。なので一見すると結び付かないように思えるのだが、実際には同じアイテムを用いて、同じフィールドで表現しているのである。

以上の事は、あくまでも私の個人的な見解なのだが、そういった解釈をすれば、武の積み重ねたキャリアをカタチや解釈を違えて反映させた作品だと言えるのではないかと思う。本作は「世界のキタノ」の第一歩に相応しい大変優秀な出来映えの作品である。ただ同時に、北野武、あるいはビートたけしの深いインテリジェンスを実感させられる作品であるとも言えるのではないかと思う。


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