自分勝手な映画批評
SPACE BATTLESHIP ヤマト SPACE BATTLESHIP ヤマト
2010 日本 138分
監督/山崎貴
出演/木村拓哉 黒木メイサ 緒形直人 山崎努
火星付近でのガミラスとの交戦で防衛軍の艦隊は、なす術なく全滅させられようとしていた。そんな中、古代守(堤真一)を艦長とする「ゆきかぜ」が自ら盾となる事を提案。「ゆきかぜ」の犠牲により防衛軍の艦隊は何とか全滅を免れるのだった。

結果は悔やむ為にあるんじゃない

放射能に汚染されて滅亡の危機に瀕する地球を救うべく任務を遂行する宇宙戦艦ヤマトのクルーたちの姿を描いた作品。

原作は、御存じアニメ及び漫画の「宇宙戦艦ヤマト」。一世を風靡し社会現象にもなったこの原作は、ある世代の人たちにとっては強い思い入れのある作品であるだろうし、原作を観た事がない人でも名前ぐらいは聞いた事がある作品ではないかと思う。まさに国民的と呼ぶに相応しい作品である原作。それを実写化した本作は待望の作品だと言えるのかも知れない。しかし、それ程甘くはないのが現実であるだろう。原作が偉大であるという事は、本作に臨むハードルが高くなっている事でもあるだろう。

時は西暦2199年。地球は、5年程前から火星星域に突如として現れた正体不明の敵ガミラスに無数の流星爆弾を送り込まれた影響で放射能に汚染され、人類は絶滅寸前の危機にさらされていた。ある日、防衛軍を除隊しレアメタルを回収をするサルベージ業者に転身していた古代進が地上でレアメタルの回収作業を行っていると間近に謎のカプセルが落下してきた。そのカプセルは大マゼラン星雲の惑星イスカンダルから発せられたものであり、中にはイスカンダルが放射能を除去する装置を地球に提供する意志があるというメッセージが含まれていた。防衛軍は選ばれた人間を地球から脱出させる為の宇宙戦艦、ヤマトを製造していたのだが、防衛軍の沖田の意向により急遽ヤマトはイスカンダルまで行って放射能除去装置を受け取る任務の為に使用される事となる。防衛軍はヤマトの乗組員を民間からも募集。古代も志願しヤマトの乗組員となった。但し、古代はヤマト艦長に就任した沖田に許し難い感情を抱いていた。古代は先のガミラスとの交戦で沖田が古代の兄・守を見殺しにしたと思っているのだった。

原作に思い入れのない人、あるいは馴染みのない人には一切関係のない話ではあるのだが、本作に臨む上で、まず心得ておかなければならないのは、本作は、まるっきり別モノとまでは解釈出来ないが、原作の「宇宙戦艦ヤマト」とはある程度の距離を置いて臨む方が賢明な作品だという事だ。原作と原作を元にした作品との間に生まれる感覚の違いは、本作のみならず多くの作品が抱える問題であるのは言うまでもない。

もっとも原作から距離を置くスタンスは、そもそも制作者側が意図したところである。本作は、多くは原作に則ってはいるのだが、原作の作品世界を忠実には再現していない。本来なら男性の登場人物を女性キャストにしてみたり、重要な登場人物である森雪を180度と言って良い程に違うキャラクターに変更しているのは、その最たる表れである。

原作、ましてやアニメや漫画という視覚的にイメージが完全化されている原作を実写で完璧に再現するのは絶対に不可能。もし、原作のイメージを再現する事ばかりに固執して製作したのならば、ヘタすればチープなコスプレ作品になってしまう可能性もある。その危険は本作では、原作をアレンジし、オリジナリティーを明確に示した事で回避されている。但し、柳葉敏郎や橋爪功は原作のキャラクターに容姿が似通っている。この辺りは原作ファンの心をくすぐる部分であるだろう。

個人的に感じる原作と距離を置いた事による一番の功績は、敵であるガミラス及びデスラーの設定である。原作のガミラス及びデスラーは、異星人でありながら、ほぼ地球人と同じ容姿をし、更には会話まで出来てしまう摩訶不思議な存在。本作でも会話をするシーンはある。しかし、それでも原作とは大きく異なる得体の知れない謎の存在として扱う事で、現実と照らし合わせた上での整合性は幾分かは修正されたのではないかと思う。

但し、その原作の摩訶不思議な設定は、原作の物語を展開させる為には重要な設定、つまり原作の魅力の一翼を担っている設定であるのは間違いない。ただ、原作に比べて相当に短縮された尺の中で物語を完結させなければならない本作において、ガミラス及びデスラーを分かりやすく得体の知れない異星人に仕立てる事は賢い選択だと思うし、また、その事によって原作以上の無気味さと、それを理由とした絶大なる恐怖を生み出していると言えるだろう。

実写化したが故に生じてしまう原作との相違。しかし本作は「ヤマト」の魂を失った訳ではない。「ヤマト」はロマン溢れる物語である。そして登場人物は皆が総じてロマンチストである。但し、甘くとろけるようなロマンではない。

マゾヒスティックだと思える程にストイックな精神で貫かれたヒロイズム。自ら進んで、誰よりも先に潔く自己を犠牲にしようとする美学。そんな生き方は現代では馴染まないのかも知れない。しかし、それこそが「ヤマト」が誇るロマンである。「ヤマト」の名を掲げた本作にも、そのヤマトイズムはしっかりと継承されている。

どうしても偉大な原作がついて回ってしまう作品であるが、原作を知らない人でも存分に楽しめる作品であるだろう。ハリウッドの大作に引けを取らないVFXは大迫力。宇宙を舞台にした作品に相応しいスケールの大きい作品に仕上がっている。

そして願わくば、原作を知らない人は、本作を機会に是非とも原作にもチャレンジして頂きたいと思う。


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