自分勝手な映画批評
下妻物語 下妻物語
2004 日本 102分
監督/中島哲也
出演/深田恭子 土屋アンナ 宮迫博之 樹木希林
原付きバイクで疾走する桃子(深田恭子)。しかし桃子は田んぼに囲まれた交差点で軽トラックとぶつかって跳ね飛ばされてしまう。

つ、つば吐いた!?

原作は嶽本野ばらの小説。ロリータ・ファッション好きの女子高生とヤンキーの女子高生の友情を描いた作品。

作品のタイトルにあるとおり、本作の主な舞台となるのは茨城県の下妻市。地方を舞台にすると、その土地特有の、時に少し寂しげな風情を感じさせる作品が多いように思うのだが、本作はそういった気配を感じさせない。本作で描かれているのは地方で生きるパワフルな若者の生身の姿。この雰囲気は「木更津キャッツアイ」に似ているように思う。

下妻に住む桃子はロリータ・ファッションを愛する女子高生。その度合いは半端ではなく、長時間の移動を苦にもせず、東京の代官山までお気に入りのブランドのロリータの服を買いに行く程の筋金入りである。ある日、ロリータの服を買うお金がなくなってしまった桃子は、以前、父親が取り扱っていて不良在庫として家に残っていたベルサーチのニセ物を売って購入資金を得ようとし、そのニセ物商品を売り出すとの告知を雑誌に載せる。するとイチコと名乗る子から買いたいとの手紙が来る。手紙の様子から小中学生あたりの女の子を想像していた桃子だったが、現れたイチコはバリバリのヤンキー女子高生だった。

まず感心させられるのは導入部分だ。本作は作品に臨む心構え、下準備を必要としない。着の身着のまま、何の予備知識がなく本作に立ち寄ったとしても混乱は大して生じないだろう。主人公がどのようにして現在に至るのか? 波瀾の生い立ちを冒頭で親切・丁寧に説明してくれるし、ロリータとは何ぞや?という事まで、しっかりとレクチャーしてくれる。

本来ならあからさまに説明を多用するのは、あまり良い手法だとは思わない。しかし、ここまで面白おかしく説明をされてしまっては、もはや身を任せて笑うしかない。この導入部分だけで心を掴まれるのは必至。同時に本作の作風を象徴していると言えるだろう。

その後の展開も導入部分のムードそのままに、勢い良く進行して行く。そんな本作は、とにかく楽しいの一言に尽きる。既存の映画という概念とは一線を画するような断然ポップな作品世界。見方によっては異様であるのかも知れないが、そのカラフルなキラキラ加減は圧倒的に魅力的である。

そんなムードに触発されたかのように導きだされるリズミカルな展開。その中でテンポ良く、ふんだんに盛り込まれるブラック過ぎるユーモアの数々。その命中率は高く、笑いが絶える暇がない。

コメディータッチでギャグテイスト満載な本作ではあるのだが、本筋は青春物語であり彼女たちの成長物語である。賑やかで騒がしい展開は、いつのまにか核心へと近づいて行く。

本作は極めて優秀な完成度を誇る作品ではないかと思う。ほぼ完璧なまでに創造された作品世界。そこに有無も言わせず引きずり込ませる見事な演出。本作で描かれている世界は絶対的に不自然だ。しかし観ていれば、ごく自然に惹き付けられ、のめり込んで行く。

これはひとえに、作り手の優れたセンスの表れだと言えるだろう。単純にスタイリッシュだという訳ではない。そこだけには留まらない、ありとあらゆるところに神経の行き届いた高等かつ万能なセンスを強く感じるのである。だからこそ、一部の人にしか受け入れられないような奇抜な作風を極限までに発展させ、多くの人が興ずる事が出来るような作品に仕立て上げられたのであろう。

そのセンスはキャスティングにも感じられる。特に脇を固めた俳優たちにその傾向は強い。人気と実力を嫌味なく良いバランスで兼ね備えた、しかも旬どころの個性派俳優を擁したキャステングは、意地悪く言えばあざとくも感じるのだが、その見事な仕事振りを見せつけられては、納得するしかない。

そんな名脇役たちに囲まれて伸び伸びと演技をする主人公の二人、深田恭子と土屋アンナがこれまた実に素晴らしい。可愛らしいロリータを装いながらも人格が破滅している深田恭子と、やさぐれてはいるのだが純真な土屋アンナ。彼女たちにとって本作の役柄はハマリ役だと言えるだろう。彼女たちの魅力が本作の魅力を増大させているのは明らかである。

多くの才能が集結し、すべてが見事なまでに高次元で発揮されている本作は、中々の傑作ではないかと思う。


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