自分勝手な映画批評
サヨナライツカ サヨナライツカ
2010 韓国 134分
監督/イ・ジェハン
出演/中山美穂 西島秀俊 石田ゆり子 マギー
豊(西島秀俊)はフィアンセの光子(石田ゆり子)の部屋で「サヨナライツカ」とタイトルが付けられた書きかけの詩を見つける。詩を声を出して読み上げる豊に照れる光子は出来上がったら見せると原稿を取り返そうとする。

思い出すのは、愛したこと? 愛されたこと?

原作は辻仁成の小説。永年に続く結ばれない恋心を描いた作品。

移り気の激しい世情を相手にする芸能界で、15年以上に渡りトップアイドルとして頂点に君臨し続けた中山美穂。その実績だけでも彼女が、ごくごく限られた特別な存在である事の証明になるだろう。

そんな彼女が久方振りに表舞台に姿を現したのが本作。しかも、夫の辻仁成が執筆した小説が原作。作品の内容には直接関係ないのだが、こういったインフォメーションは本作への興味心を自然と沸き立たせる。

結婚を間近に控えた豊は好青年を装いつつも野望を抱える男。航空会社に勤める豊は、フィアンセの光子を日本に残して赴任しているタイで、同僚で学生時代からの友人である恒久に彼女だと紹介されたミステリアスな美女、沓子に心を奪われ、沓子の誘惑に屈して恋に落ちる。

スタイリッシュな映像と品のある音楽からは上質な美意識が感じられ、主な舞台であるタイの独特な風情と相まって実に魅力的な雰囲気を創造している。また、実在する由緒あるエレガントなホテル、ザ・オリエンタル・バンコク(マンダリン・オリエンタル・バンコク)が本作のキーとなる場所である事やクラシカルなメルセデス・ベンツ500Kロードスターを登場させている事も魅力的な雰囲気を高める効果をもたらしていると思う。

但し、描かれている人間ドラマはタイの気候に感化されたかのように情熱に溢れ、官能的で汗臭い。

好青年に見えながらも一皮剥けば違う顔を持つ男と乱れているようで純粋な女、そして清純そうに見えてしたたかな女。意識も立場も違う者たちが繰り広げる人間模様は複雑を極める。ただ、複雑にさせているのは、面白い事に彼らのシンプルな欲望なのである。シンプルが重なり合って作られた複雑な光景は、生々しい愛憎で染まっている。

本作の実質的な主人公は西島秀俊演じる豊である。仕事が出来るプレイボーイはスーパーマンのようであるが、少し間違えれば嫌な男にも映ってしまうだろう。本作の豊は、どちらかと言えば嫌な男。しかし、その嫌なイメージを起点として、段々と変化して行く姿は深みある造形を感じさせる。正直、老けメイクを施した25年後の姿には、少々難があるようにも思えるのだが、その辺りは大目に見ても良いだろう。

中山美穂が演じる沓子は、一見すると色を好むキャラクター。中山美穂は、もはやアイドルではないだろうが、保ち続けたアイドルのイメージからは想像つかない大胆な演技で艶やかに好色を演じる。この役柄がハマるのは、彼女がデビュー当時から持ち続けている色気ある大人びた容姿が大きく影響しているだろう。但し、彼女が主戦場で培ってきたアイドル性が排除されている訳ではない。だからこそ沓子のキャラクターに奥行きが生まれたのだと思う。

出番は中山美穂、西島秀俊に比べ少ないが、しっかりと“らしさ”を感じさせる存在感を示す石田ゆり子も良い。


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