自分勝手な映画批評
セント・オブ・ウーマン/夢の香り セント・オブ・ウーマン/夢の香り
1992 アメリカ 157分
監督/マーティン・ブレスト
出演/アル・パチーノ クリス・オドネル
名門ベアード校に通うチャーリー(クリス・オドネル)は、学校の感謝祭アルバイト紹介の掲示板で「感謝祭の週末、家に残る家人の世話」という募集を見つける。

潰れた魂に義足は付かない

盲目の退役軍人とアルバイトで彼に付き添う事になった高校生との交流を描いた作品。

私が子供の頃には近所に、それこそ漫画に出てくるような、頑固で偏屈なオヤジや口うるさいオバサンがいた。それは、当時としては、ごく当たり前だったと思うし、今にして思えば、私のご近所界隈は良い環境だったのだと思う。当時は、厄介な存在にしか思えなかったそんな大人達も、危なっかしい私達の思考や行動を憂慮してくれていたのだろうし、また、社会というものを教えてくれたのだと思う。

大人になってふと感じた事は、当時、頑固で偏屈で口うるさく感じた大人達も、最初からそういった性格ではなかっただろうという事だ。もちろん本人の資質も大いに関係はしているのだろうが、おそらく、その人達が歩んだ人生が、そのような人物に仕立て上げたのではないかと思う。人は誰しも、そうやって人格形成されていくものだ。

アル・パチーノ演じるフランクは頑固で偏屈な男。その性格には彼の本来の資質も関係してはいるのだが、盲人だという点が大きく影響している。それは、いくら親身になったとしても、想像しきれないほどの苦しみであろう。

もうひとつ重要になるのは、フランクが軍人だった点だ。退役してはいるものの、彼の魂は未だに軍人のままである。しかし、その心持ちが彼の行く末を阻んでしまう。きっと、もっと楽に生きられただろう。だが、彼の誇り高きプライドが、それを許さなかった。

だが面白いもので、ネックであるはずのフランクの性格が、奇しくも対人関係において良い効果をもたらす。フランクの強引で不作法な振る舞いは、彼に対する敬意を消失させる。だが、それは同時に、必要以上に特別扱いしない事にも繋がるのである。

本作の真髄は、障害を乗り越えたというよりも、障害をも意に介しない心のふれあいであると私は思う。言い換えれば、包み隠され見失いがちだが、本質とは、大切な事とは何なのか? という事なのだと思う。そのメッセージはクライマックスシーンに集約される。そして、そのシーンでフランクの誇り高きプライドが活かされる事になる。

本作の演技でアル・パチーノは、第65回アカデミー賞の主演男優賞を受賞している。


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