自分勝手な映画批評
リトル・ミス・サンシャイン リトル・ミス・サンシャイン
2006 アメリカ 100分
監督/ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ヴァリス
出演/グレッグ・キニア スティーヴ・カレル アビゲイル・ブレスリン
ミス・コンテストのビデオを繰り返し見るオリーヴ(アビゲイル・ブレスリン)。持論の勝ち組理論の講議をするリチャード(グレッグ・キニア)。自室で筋トレに勤しむドウェイン(ポール・ダノ)。ヘロインを吸引する祖父(アラン・アーキン)。家族が各々の時間を過ごしている中、シェリル(トニ・コレット)は実兄(スティーヴ・カレル)のいる病院に向かっていた。

苦悩の日々こそが、自分を成長させる最良の日々

娘の美少女コンテスト出場と並行して巻き起こる家族の騒動を描いた作品。

大いに笑えるコメディー映画だ。しかし、単なるバカ騒ぎではなく、本作の芯は、しっかりとしたヒューマンドラマである。ヒューマンドラマにコメディーを、かなりの割り合いでちりばめているという表現が適しているのかも知れない。

非常に個性的な家族構成である。本を出版して一獲千金を狙う父。ヘロイン中毒の祖父。9ケ月前から喋る事を止めた息子。美少女コンテストへの出場を夢見る娘。そこに、自殺未遂を起こした母の兄が引き取られてくる。唯一、特筆するような背景が描かれていない母ではあるが、だからといって家族を軌道修正させる訳でもなく、やはりこの家族の一員であると感じさせる。

家族の紹介は、冒頭でコンパクトに効率良く行われる。物語に臨む下準備がバッチリ出来たところで、娘が繰り上げで美少女コンテストに出場出来る事となり、本作はロードムービーへと移行して行く。

ニューメキシコ州のアルバカーキからカリフォルニア州のレドンドビーチまでの長旅。移動手段として使われるのは、古いフォルクスワーゲンのバス。このフォルクスワーゲンも、登場人物のひとりに数えて良いくらいに大きな役割を果たしている。アクシデントを交えながら旅は進み、その途中で登場人物たちは、それぞれ新しい局面を迎える。

人の不幸は蜜の味というのは、あまりにも悪趣味ではあるのだが、少なからず本作の面白味は、その類いに当てはまるのではないかと思う。言い換えれば、悲劇と喜劇は紙一重だという事ではないかと思う。

変わり者の集団は、端から見れば滑稽であろうし、恰好のコメディーの素であると言えるだろう。しかし、当の本人たちは、それぞれに切実な事情を抱えているし、その事情を抱えながらも懸命に生きている。

だからこそ面白いのだろう。ただ、彼らのユニークな思想や行動を笑い飛ばしてしまえば、単なる悪趣味で終わってしまうのかも知れない。しかし、本作は笑いに繋がる彼らの切実な事情を蔑ろにせず、しっかりと描いている。必ずしも万人が共感出来る事情ではないのかも知れない。しかし彼らの必死さは重々伝わってくる。それ故、ヒューマンドラマとして成立している。

アクション、ミステリー、コメディー等々、作品を特色や作風でジャンル分けする場合が多々あるが、その根拠となるアクションやミステリーやコメディーは、本来、あくまでも作品を彩るスパイスであり、多くの作品の中軸には人間心理を基調とした本筋がある筈であろう。

スパイスとなる要素を特化するあまりに、肝であるべき本筋の印象が薄まってしまっている、あるいは、本筋の深みを御座なりにしている作品もある中、本筋の重さを忘れていない本作は、見事に両立させていると言えるだろう。しかも双方とも、高いレベルで並び立たせている。出演者を含めた制作者の優れた技量とバランス感覚、そしてセンスが大いに感じられる良質な作品であると思う。

第79回アカデミー賞、助演男優賞(アラン・アーキン)、脚本賞受賞作品。


>>HOME
>>閉じる



★前田有一の超映画批評★

おすすめ映画情報-シネマメモ