自分勝手な映画批評
クライマーズ・ハイ クライマーズ・ハイ
2008 日本 145分
監督/原田眞人
出演/堤真一 堺雅人 尾野真千子
1985年8月12日、北関東新聞社の記者、悠木(堤真一)は同じ社の販売部、安西(高嶋政宏)と谷川岳の衝立岩に登る約束をしていた。悠木が待ち合わせ場所に向かおうとする時、日航機行方不明の一報が入る。

ベルトにサスペンダーの男の勝負

本作で描かれている日航機墜落事故は、私は関係者ではないのだが、私にとっても大きな衝撃であり、今でも記憶に残っている。

乗員乗客524名のうち死亡者数は520名、生存者はわずか4名。亡くなった方の中には歌手の坂本九さん、女優の北原遥子さん、プロ野球阪神タイガースの球団社長、中埜肇さんもいた。阪神タイガースはこの年、背番号44番の助っ人外国人、ランディ・バース選手らの活躍により21年振りのリーグ優勝、さらには2リーグ分裂後の初の日本一となり、社会現象にもなった大きな旋風を日本中にもたらしたのだが、この墜落事故による球団社長の死がチームを鼓舞したとして優勝の一因として挙げられたりもした。また奇跡的に助かった少女がヘリコプターに吊られる形で救出される光景はまさに感動であった。

事故から十年ほど後、私は現地で事故の後処理作業をされた人とたまたまお会いし、お話を少し伺ったことがあるのだが、その現場はまさに壮絶だったらしい。本作でも事故現場に行った記者の苦悩が描かれているが、その人も現場の光景に後々まで随分と苦しめられたそうだ。

ただし本作は事故の悲惨さや事故原因の追求といった事故の本質を描いた作品ではなく、あくまでも事故を取材し報道する新聞社の内情を描いた作品である。新聞社の慌ただしさが大いに表れている。とくに事故の一報が入った時、右往左往する記者の姿は広いフロア活かしたを縦横無尽なカメラワークで喧騒感・臨場感が伝わってくる秀逸なシーンだ。また1分・1秒を争う新聞社で働く記者達のバイタリティー・判断力・疾走感といった力強さも大いに表現されている。自己顕示欲の誇示と映る人物もいるのだが、けっしてそれだけではなく、底辺にはジャーナリストとしての魂が感じられる。それが反目しあう者たちの唯一で固い絆なのだろう。

それぞれの人物像を作り出す骨太な脚本はもちろんだが、演じる俳優達も素晴らしい。名より実を取った適材適所なキャステングであり、それに答えるように各々の個性と表現力で無骨な男を演じている。そんな男の世界で生きる駆け出しだからこそがむしゃらな紅一点の女性記者を演じた尾野真千子が特に印象に残った。


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