自分勝手な映画批評
キル・ビル vol.1 キル・ビル vol.1
2003 アメリカ 111分
監督/クエンティン・タランティーノ
出演/ユマ・サーマン ルーシー・リュー 千葉真一 栗山千明
床に倒れた血まみれの花嫁(ユマ・サーマン)は、目の前にいるビル(デビッド・キャラダイン)に自分のお腹にはビルの子供がいると告げようとするのだが、ビルはそれを聞く間ももたず、花嫁に銃弾を撃ち込んだ。

金髪の戦士よ、行きなさい

女性を主人公にしたアクション作品にチャーリーズ・エンジェルがある。本作で主人公を演じたユマ・サーマンは、3人のエンジェルたちに負けず劣らずカッコ良く、そういった面では両作には共通点が感じられる。だが、作品の内容自体は、ある意味、対極にあると言って良いかも知れない。

ある女性の復讐劇を描いた本作には、濃密すぎる程のバイオレンスが詰まっている。そこらかしこで体の一部が切り落とされ、その切れ口から血が吹き出て、瞬く間に映像は赤く染まる。そういった意味では万人受けはしない作品なのかも知れない。ただ、あまりにも非現実的な描写を多用しているので、本作をコミック的な感覚で捉える事も出来るのではないかと思う。

日本がメインの舞台となる本作には、日本に造詣が深いとされるタランティーノの日本に対するリスペクトが感じられ、日本の作品をモチーフにしたような、さらには、タランティーノは日本映画を撮りたかったのではないかと思わせるような場面が随所に登場する。

しかし、それは、あくまでもタランティーノなりの日本の解釈。タランティーノフィルターを通して描かれた日本は、アクションのメインとなるチャンバラシーンを含め、およそ日本式ではない。もっと言えば、あまりにも荒唐無稽過ぎて、日本人としては憤慨したくなるような場面も多々ある。だが逆に、外国人だからこそ上手く旨味を抽出させていると感じる面もあり、逆輸入のようなカタチで日本の良さを実感出来るのは、皮肉ではあるが何とも面白く感じる。

海外の作品で、意味不明なシーンに出会す事が時々ある。感じたとおりに、まったく意味のないシーンもあるのだろう。だが、作品を通り越して、背景にある世間一般の通念を拠り所として楽しめるシーン、言い換えれば、その国でしか分からない、その国の人なら笑えたり感心したりしているのではないかと想像出来るシーンもある。そんな時、作品の魅力の全てを理解出来ないという悔しい思いが込み上げてくる。

私は本作でも全てを理解していないのかも知れない。だが、日本を舞台にし、また日本のモノではないのだが、日本人に馴染みあるモノが登場する本作は、その思いを幾分解消しているように感じる。

そもそも本作の下敷きに梶芽衣子主演の「修羅雪姫」があるのは透けて見えるのだが、それ以上に、その背景が分かりやすく実感出来るのは、本作の象徴とも言えるユマ・サーマンが着ている黄色いトラックスーツだ。これは「死亡遊戯」でのブルース・リーを意識しているのは明白。同じブルース・リー繋がりではカトーマスクと命名された「グリーン・ホーネット」のマスクも登場する。他にも、千葉真一の役名が服部半蔵であるのは「影の軍団」を思い起こさせ、さらには千葉真一と師弟関係にある「宇宙刑事ギャバン」の大葉健二が出演しているのにもニヤリとさせられる。

また、冒頭で、いきなり耳に飛び込んで来たのは往年のテレビ番組「ウィークエンダー」で馴染みのある曲。タランティーノが「ウィークエンダー」を知っていたとは思えないので偶然だとは思うが、嬉しい誤算であるのは間違いない。

確かにマニアックではあり、分かる人にしか分からないのかも知れないが、楽しめるアイテムが存分にちりばめられている点も本作の面白味であるだろう。

日本人キャスト、しかも馴染みある日本人俳優が多く出演しているのも本作の特徴だ。その中で、千葉真一のワールドワイドな存在感も素晴らしいのだが、私は栗山千明の輝きを特筆したい。彼女は決して出番が多い訳ではない。しかし、しっかりとインパクトを残している。本作で魅せる狂気だけでも栗山千明が希有な女優である事が理解出来る。

復讐劇は終わっていない。物語はvol.2へと引き継がれる。


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