自分勝手な映画批評
ゴールデンスランバー ゴールデンスランバー
2010 日本 140分
監督/中村義洋
出演/堺雅人 竹内結子 吉岡秀隆 劇団ひとり
デパートのエレベーターに乗り込む晴子(竹内結子)とその夫(大森南朋)と娘の七美(北村燦來)。七美は少し暴れて、先に乗っていた目深に帽子を被った男(滝藤賢一)にぶつかってしまう。

信じたいんじゃない、知ってるんだ!

原作は伊坂幸太郎の小説。総理大臣暗殺犯に仕立てられた男の逃走劇を描いた作品。

作品タイトルは、ビートルズの実質的なラストアルバム「アビイ・ロード」のアナログレコードではB面に収められている楽曲からの流用。この本作と同名の楽曲は、「アビイ・ロード」のB面の特徴である、実に巧みなメドレー形式の中に組み込まれている楽曲で、インパクトはあるものの、1分半程の短い楽曲である。本作の冒頭で僅かに挿入される横断歩道のシーンは、「アビイ・ロード」のアルバムジャケットを意識しての遊び心だろう。

堺雅人演じる主人公の青柳は、大学時代の友人である吉岡秀隆演じる森田に釣りに誘われ、仙台で久方振りの再会を果たす。だが、当日の仙台は金田総理大臣の凱旋パレードが行なわれており、森田は最初から青柳と釣りに行く気持ちなどさらさらなく、妻の借金を帳消しにする代わりに、青柳を凱旋パレードの地に連れてくるように頼まれたと告白する。

森田は青柳に言う「お前、オズワルドにされるぞ!」。オズワルドとは、無罪を主張しながらもケネディ大統領暗殺事件の暗殺犯とされた男。本作の下敷きには、その謎多き暗殺事件がある。

しかし、本作をミステリーとして捉えるならば、少々肩透かしを食らうのかも知れない。権力を相手にしたミステリーを伴うサスペンスとして十分に機能し、緊張感ももたらしてはいるのだが、内容の主は人間ドラマなのだと私は思う。

その人間ドラマを、トリッキーではあるが、主導して繰り広げるのは、今は離ればなれの大学時代の4人の仲間。そして、今さら説明するまでもないが、ビートルズも同じく4人組。勝手な解釈だが、この人数合わせは意図的であると私は睨む。

本作の4人とビートルズはピッタリとは重なり合わない。むしろ重なり合わない部分の方が多いだろう。但し、楽曲「ゴールデン・スランバー」がひとつのキーとなる。「ゴールデン・スランバー」は過去への想いを感じさせる楽曲。2組に共通しているのは、4人で過ごした青春の日々と、そこで生まれた掛け替えのない財産。そして、関係は終焉を迎え、それぞれの道を歩んでいる事。

本作の4人にとって、大学時代が人生最良の時間だったという訳ではないのかも知れない。ただ、彼らの中には青春の残像が生き続けている。絶対絶命のスピーディーな展開の中、本作が語り掛けたかったのは、オズワルドでもケネディ大統領暗殺事件でもなく、ビートルズになぞらえた4人の現在の姿であり、青春時代に育んだ絆の所在なのではないかと思う。

バラエティー豊かで数多いキャストも本作の特徴であろう。豪華キャストというのは、他の作品でもある事だが、割と同じようなメンツの場合が多いように思う。だが、その辺りの杞憂は本作では解消されているのではないかと思う。あまり見ない顔合わせが繰り成すドラマは楽しく、作品を豊かにしていると言えるだろう。

もちろん中心は、主人公である堺雅人。彼の柔和な表情を活かした独特な個性が特化して発揮されているとは言い難い。だが、彼が中心にいる事で、人間味あるドラマが成立しているのは間違いないだろう。

豊かな才能を感じる黒い天使のような濱田岳、いつもとは違うユニークで無気味な存在感を醸し出す永島敏行も印象に残る。


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