自分勝手な映画批評
砲艦サンパブロ 砲艦サンパブロ
1966 アメリカ 196分
監督/ロバート・ワイズ
出演/スティーブ・マックイーン リチャード・アッテンボロー リチャード・クレンナ
1926年、アメリカ海軍のホルマン(スティーブ・マックイーン)は砲艦サンパブロに乗船する為に上海の港に着いた。

信念を貫くがゆえの辛さ

1920年代の中国を舞台に、アメリカ海軍の砲艦サンパブロに乗務するアメリカ兵の姿を描いた作品。原作はリチャード・マッケナの小説。

あまり詳しく知らないのだが、砲艦とは海岸・河川で活動する小型の軍艦の事らしい。本作でスティーブ・マックイーン演じる機関兵のホルマンは、大きな最新鋭の軍艦ではなく、ある意味、ノスタルジックな砲艦を好んで乗務している。

マックイーンは現在でも多くのファンを抱える俳優ではないかと思う。そして中には、マニアと呼ばれるような人もいるように思う。過去の俳優であるマックイーンを崇拝するのであれば、自然と彼が生きた時代、すなわちノスタルジックな世界も好みとなるのではないかと思う。本作のマックイーンは、そんなファン心理と不思議と同調しているかのようである。

但し、本作は、そのようなノスタルジーに訴えかける作品ではない。内容は、かなり辛辣である。ハッキリ言って本作に救いはない。正義も描かれているのだが、その正義を貫いたからといって報われる訳でも、幸せになれる訳でもない。

砲艦サンパブロの乗組員に新たに加わったホルマン。当初、サンパブロの乗組員たちには、新入りを受け入れる心構えが整っていたのだが、安易な交わりを善しとしないホルマンの頑固な姿勢が、すべてを御和讃にしてしまう。

そんなサンパブロ内の不協和音をよそに、当時の社会情勢が物語に影響を及ぼし始める。奇しくも船内の人間関係に同調するかのように、次第にサンパブロ自体が異国の地で孤立して行く。

事の本質は同じだとは言えないのだろうが、個人的な事情とも言える人間関係と社会的な情勢をシンクロさせたような描き方は実に見事である。比較的共感しやすい人間関係の描写を重ねる事により、社会情勢の持つ、顔の見えない漠然さが解消され、その状況下での混乱を、より一層実感させる効果をもたらし、同時に、大規模な社会情勢を巻き込む事で、不穏な人間関係を、より一層顕著にさせていると言えるだろう。

軍隊を描いた作品ではあるのだが、本作を戦争映画と呼んで良いかは疑問ではある。だが、戦争下を描いた作品ではあまり描かれていない恐怖を感じ得る事が出来る。逆に、戦争下でないからこそ、その恐怖が身近に感じられるのかも知れない。

本作が、どういった意図で製作されたのか私には分からないのだが、1920年代の物語が現代に通じてしまう事に、底知れぬ恐ろしさを感じる。言い変えれば、1920年代から人類は、大して成長も進歩もしていないのではないかと感じる。

顛末を丁寧に、丹念に描いた本作は、3時間を超す長丁場に見合った見応えを存分に感じさせる。本作のポイントとなるのは、刻一刻と変化する状況下での、ホルマンの変わらぬ芯の強さである。それは、勇ましく、力強いのだが、それゆえに痛々しく、切なく映し出される。


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