自分勝手な映画批評
男はつらいよ 男はつらいよ
1969 日本 91分
監督/山田洋次
出演/渥美清 倍賞千恵子 光本幸子 森川信 三崎千恵子 前田吟
柴又帝釈天の庚申まいり。参道の纏行進に飛び入りで加わった車寅次郎(渥美清)は、力一杯、纏を振った。

ワタクシ、生まれも育ちも葛飾柴又です。

全48作、26年にもわたって日本人に寄り添い続けた国民的映画シリーズ「男はつらいよ」。本作は、その第1作目となる作品である。

「男はつらいよ」が映画ではなく、元々はテレビドラマだったという事は有名な話だ。テレビドラマの最終回、寅さんはハブに噛まれて命を落としてしまうのだが、「どうして寅さんを殺したんだ」といった抗議がテレビ局に殺到。それを受けて、映画化されたという事は広く知られている。

だが、忘れ去られた事実もある。テレビドラマ放映当時の新聞記事を確認すると「男はつらいよ」は今までにはない、画期的なテレビドラマだという論調で紹介されている。「男はつらいよ」シリーズが国民的である理由の1つにマンネリズムが挙げられる筈だが、スタート時には新感覚な作品であったという事は興味深い事実である。

20年振りに故郷の葛飾柴又に戻った車寅次郎。20年の間に両親と兄は他界しており、残る家族は妹のさくらのみ。ただ、実家の団子屋は叔父叔母のおいちゃん、おばちゃん夫婦が引き継いでおり、親代わりとしてさくらと一緒に暮らしていた。20年振りの感動の再会を果たした翌日、さくらは勤務先のオリエンタル電気の下請け会社の社長の息子と見合いをする事になっており、おいちゃんが付き添う事になっていた。だが、おいちゃんは前夜、飲み過ぎてしまったせいで二日酔いの体調不良であり、行く事が出来ない。さくらは、見合いは上司の部長が無理やり押しつけた話なので乗り気ではなく、よって、先方は両親と妹が来るのだが、1人で行くと言い出す。しかし、おばちゃんは良い見合い話なのに、1人で行ったりでもしたら駄目になってしまうと心配する。同様の心配をしていたおいちゃんは、寅次郎に代わりに行って欲しいと頼む。寅次郎は了承し、さくらの付き添いで見合いに行く事になった。

ソフト帽は寅さんをイメージする上で欠かせないアイテムだが、ソフト帽のイメージを持つ人物やキャラクターは多く存在しており、その中の1人がご存知、ハンフリー・ボガードだ。ボガードと言えば、ハードボイルド。一方の寅さんはドジでマヌケな、お調子者。同じくソフト帽を着用していても、こうも違うのかと感じてしまう2人だと言える。

だが、ハードボイルドの定義を痩せ我慢だとするのならば、寅さんにもハードボイルド的な要素もある。と言うか、そのハードボイルド的な要素が隠し味になっているからこそ、「男はつらいよ」で泣けるのである。

よく寅さんは、皆から馬鹿呼ばわりされている。そのほとんどは、寅さんの馬鹿な行動に対する文字通りの言葉なのだが、時として言葉とは裏腹に愛情がたっぷり込められた馬鹿もある。そんな時が、寅さんのハードボイルドが発揮された時だ。馬鹿呼ばわりされるハードボイルドは、そう簡単に真似出来るものではなく、寅さんの専売特許だと言っても決して過言ではない。

そして、そんな芸当は渥美清が寅さんを演じたからこそ実現したと言える。ただ、実現は前もって約束されていた。何故なら、寅さんは渥美の分身だからである。テレビドラマの「男はつらいよ」を製作するにあたり、山田洋次は渥美と面会をしたのだが、そこで渥美はテキ屋の口上を披露。えらく感銘を受けた山田は、そこから寅さんのキャラクターを創造した。だから、渥美ありきの寅さんなのである。

だが、渥美は自分の分身に随分と苦しめられた事だろう。国民的な人気を博した寅さんのイメージを払拭する事は難しく、寅さん以外の役を演じる事に躊躇した事もあったと聞く。実はテレビドラマ「男はつらいよ」の前に、渥美主演の「おもろい夫婦」というテレビドラマがあった。「おもろい夫婦」は好評で、テレビ局は続けたかったのだが、渥美はイメージが固定されてしまう事を嫌がり、続行を拒否。それで「男はつらいよ」が誕生したというのだから、何とも皮肉な話である。

ただ、そうであっても一方で、渥美は寅さんというキャラクターを愛していた事だろう。他の役柄を演じるのを躊躇したのは、寅さんのイメージを壊したくなかったからに他ならない。そして渥美は、渥美同様、同じ役を演じ続ける事に関して腹に一物ある共演者に、その素晴らしさを言葉少なではあるがアドバイスしていたりもする。

山田監督は渥美の事を天才と称しているが、もう1人天才と称する人物がおり、それは寅さんの妹、さくらを演じる倍賞千恵子である。「男はつらいよ」と言えば、寅さんばかりがクローズアップされがちだが、さくらが受け止めればこそ寅さんが映える。作品ごとにマドンナは変わるが、シリーズ通じての「男はつらいよ」のマドンナは、さくらなのだ。そして、おいちゃんとおばちゃん、博にタコ社長といった面々いればこそ「男はつらいよ」が成立しているのだという事も忘れてはならない。

その倍賞、本作では茶髪で登場している。年齢を重ねても、いつでも倍賞は美しい女優なのだが、多くの人が抱いているであろう、さくらの見た目のイメージとは少し異なるフランス人形のような可愛らしさは一見の価値ありだと言える。

「男はつらいよ」は1作品で完結しており、また、どの作品も大いに笑い、大いに泣かせてくれるので、シリーズであっても、どの作品を観ても構わないと思うのだが、もし、どの作品も観た事がないというのであれば、第1作目である本作から観ることをおすすめする。また、他の作品は観ているけれど、まだ本作を観ていないのであれば、是非とも観て頂きたい。本作には、車寅次郎一座の元気一杯な姿が収められている。

寅さんの「バター」というアドリブらしきセリフで、出演者が思わず素で吹き出してしまうところを、どうか見逃さないで欲しい。


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