自分勝手な映画批評
相棒 −劇場版ll− 警視庁占拠! 特命係の一番長い夜 相棒 −劇場版ll− 警視庁占拠! 特命係の一番長い夜
2010 日本 119分
監督/和泉聖治
出演/水谷豊 及川光博 小西真奈美 六角精児 岸部一徳
夜、港に停泊している船舶に警察の部隊が突入した。拉致されていた男(小澤征悦)を救出したのだが、船舶には爆弾が仕掛けられていた。

自己満足な正論… ですか?

大ヒットテレビドラマ「相棒」の劇場版第2弾。

どちらかと言えば地味な部類の刑事ドラマであり、決して時流に乗っている訳でもないのに大ヒットを掴んだテレビドラマ「相棒」。大ヒットの要因は、人情とミステリーを緻密に絡ませ、時に社会性のあるテーマを取り上げた高レベルな作品内容、水谷豊演じる杉下右京のキャラクター、相棒刑事とのコンビネーション、同僚刑事との掛け合い等々、色々とあると思うのだが、その1つにテレビ朝日のテレビドラマ製作に対する真摯な姿勢が挙げられるのではないかと私は思う。

トレンディードラマ誕生以降、旬を描くと言えば聞こえが良いが、鮮度に固執した為に奥行きがなくて安っぽい、更に口悪く言えば、使い捨てのような作品も多く見受けられるテレビドラマ界。そんな周囲に惑わされる事なく、否、逆に周囲が同じ調子だからこその、あえてなのかも知れないが、独自の路線を貫き、地道に秀作を生み出す努力を怠らなかったテレビ朝日の姿勢が勝利を導き出したのではないかと強く感じる。





警視庁庁舎内の道場で大河内監察官の剣道の稽古の相手をした特命係の神戸。先に二本取ったらワインを貰える約束であり、二本取った神戸は稽古後に庁舎内の大河内の部屋でワインを受け取った。その帰り、エレベーターに乗ろうとした神戸は、エレベーター内で争う素振りの男女に出会す。女の手を取りエレベーターを降りようとする男の手には拳銃があった。咄嗟に神戸は女の手を引き、女をエレベーター内に引き戻す。男だけがエレベーターを降りるのだった。神戸は女に刑事部に連絡するように指示し、上司の杉下に拳銃を持った男がいる事を報告する。その時、火災報知器のベルが鳴った。拳銃を持った男は、警視総監をはじめとする警視庁幹部が定例会議をしている11階の会議室に侵入し立て籠った。





まず私が声を大にして言いたいのは、本作はテレビドラマの劇場版としては極めて優秀な作品だという事だ。

テレビドラマの劇場版の中には、テレビドラマよりも格段にスケールアップした事柄を取り上げている作品がある。映画なのだから、否、映画だからこそスケールアップして当然というのは、もっともな意見であるだろう。ただ、スケールアップした事で、テレビドラマ時の魅力が損なわれてしまうようでは元も子もない。

残念ながら、スケールアップが空回りしている作品は存在していると思う。その原因は気負い、テレビドラマと映画は別物、あるいはテレビドラマよりも映画の方が格上だとみなした映画製作への気負いではないかと思う。そういった作品は、どこか無理して“よそ行き”を着飾っているように見えてしまう。

だが、そういった心配は本作にはない。至って通常運転である。その最大の理由はテレビドラマの「相棒」は、定期的に通常の1時間のサイズを拡大したスペシャル版が製作されているからである。なので「相棒」劇場版は、スペシャル版と同等と考えて良い作品、つまり、映画だからといって変な気負いは芽生えない作品なのである。正直、劇場版の1作目となる前作では“よそ行き”感は若干見受けられたのだが、本作では見事に改善されている。

但し、テレビドラマと映画では絶対的な違いがある。それはテレビドラマがビデオで製作されているのに対し、映画はフィルムで製作されている点だ。この画調の違いを気にならない人もいるのだろうが、私は少し気になるクチ。どうしてもテレビドラマと異なる画調に違和感を覚えてしまう。

だが、本作はフィルムでの製作が上手く作用していると思う。違和感以上に、深みと重厚感のある魅力的な映像に心を奪われる。ただ、そういった感覚に至るのは、ストーリー自体が優秀であり、且つ違和感、つまり“よそ行き”感がない事が大きいのだと思う。

本作は、あくまでもテレビドラマの劇場版として製作された作品、つまり、テレビドラマを観ている事を前提として製作された作品である。従って、いつものメンバー、主要な登場人物に関する説明は皆無。だが、テレビドラマを知らなくても楽しめる作品だと思うし、例えテレビドラマが存在しなくても、ちょっとしたプロローグを加えるだけで、立派に単体として成立する作品だと思う。

いくつものストーリーが積み重なるような、多重構造から成る奥深いミステリーは実に見事。海外の、この手の第一級の作品と比べても決して引けを取らない高いクオリティーを誇っている思う。もちろん従来の「相棒」ファンを裏切る作品ではない。そして何より、「相棒」シリーズを通じてターニングポイントとなる、重要な作品である。


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