自分勝手な映画批評
ある殺し屋 ある殺し屋
1967 日本 82分
監督/森一生
出演/市川雷蔵 野川由美子 成田三樹夫 小池朝雄
駅に着いた塩沢(市川雷蔵)はタクシーに乗って海に面した埋め立て地を訪れた。そこでタクシーを降りた塩沢は、周りの状況を確認した。

俺は自分しか信用しない

原作は藤原審爾の小説「前夜」。名うての殺し屋の仕事振りを描いた作品。

中々の作品タイトルだと思う。世の中に殺し屋なんて存在しないと思うが、仮に存在するのならば、功名とは縁遠い、日陰のそのまた奥の職業だろう。そして、そこには常人には想像もつかない世界が広がっている事だろう。孤独と余韻、そして匿名性を感じさせる作品タイトルは、本作のみならず、殺し屋の在り方を上手に言い表わしていると思う。

小料理屋の主人、塩沢は、ある食堂で無銭飲食をしようとしていた女、圭子の飲食代を肩代わりした。ただ、圭子は中々のクセ者で、塩沢の財布の中身の札束を見て塩沢に取り入り、塩沢の小料理屋に居着いてしまった。だが、塩沢もタダ者ではなかった。小料理屋の主人とは世を忍ぶ仮の姿。実は名うての殺し屋だったのだ。そんな塩沢のところに木村組の前田という男が、ある男の暗殺を依頼しに来た。

ちょっとした異色作ではないかと思う。というのも体裁的にはフィルム・ノワールそのものなのだが、バタ臭さはなく、作品を包み込むムードは純和風なのである。ならばヤクザもののようなテイストを醸し出しそうなものなのだが、それとも違う。ちょっと他の作品とは違う、独特な色を放っている作品のように感じる。

そう至ったのには、主演の市川雷蔵の資質が大きく影響しているように思う。雷蔵演じる塩沢はゴルゴ13張りのプロ中のプロの殺し屋。殺しの腕前はもちろんの事、仕事に対する姿勢もストイックで計画・行動共に緻密を極め、情に流される事などない。

だが、雷蔵からは殺し屋風情の鋭利な刃物のような危ない香りは感じない。どちらかといえば逆にソフトな印象だ。しかし、だからといって殺し屋が務まっていない訳ではない。ソフトな表面の裏側には、しっかりと凄みを感じさせる。

この既存とはひと味違うキャラクターの造形が本作の独特の色を生み出しているのではないかと思う。見事に演じる雷蔵の才能の奥深さも素晴らしいのだが、もし本作が雷蔵の個性を活かすように仕組まれていたとするならば、それはそれで素晴らしいと思う。

作品を自分の色に染めるスターの輝き。それを為せるのは古き良き時代だからと言ってしまえばそれまでだが、すべてを凌駕する存在感は、いつの時代のスターにも備わっていて欲しいものであると個人的には思う。

雷蔵色を滲ませる本作。しかし、それだけではないのが本作の秀でたところ。迎え撃つ野川由美子と成田三樹夫も雷蔵に負けず劣らず強い個性を発色している。

野川の、はすっぱな悪女っぷりが良い。裏表のあるキャラクター、しかも過去と現在が交錯する物語で、それぞれ局面で演技のトーンを見事に使い分ける有り様には演技者の才を感じさせる。また、成田の重軽が入り交じった嫌らしさも、この上なく堂に入っており、これまた素晴らしい。

この手足れた三人の強い個性のぶつかり合い、濃厚なトライアングルの充実が本作最大の見どころだと言えるだろう。決して大作と呼べる作品ではないと思う。しかし、いぶし銀のような味わいを届ける、中々の秀作ではないかと思う。

小料理屋の女中みどりが、どこかで見覚えのある顔だと思い、後で調べてみたら、何と歌手の小林幸子だった。作品内容には関係ないのだが、こういった発見も古い作品の楽しみ方だろう。


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